今回はこういった疑問や考えに沿って話をしていきます。
- 6つのサッカー指導者のタイプ
- サッカー指導者が目指す姿
- 身近なサッカー指導者を6つのタイプで考える
今回紹介するサッカー指導者のタイプは、UEFA(ヨーロッパサッカー協会)指導者講習会に出てくるものです。日本国外、海外ではどのようにサッカー指導者を分類、タイプ分けしているのかを見ていきましょう。
6つのサッカー指導者のタイプ
UEFAのサッカー指導者講習会では、サッカー指導者のタイプを6つに分類しています。
それでは早速見ていきましょう!
「伝統的な指導者」
・効果的なモデルを伝えるために、指示的で印象的な方法を使用。
• 選手たちは自分の役割と求めらていることを明確に理解する。
• 練習の雰囲気は堅い雰囲気で緊張感がある。
• チームスタッフの協力と介入が少ない。
一言で言うと、「厳しい監督」といイメージです。
多くのことをその指導者一人で決め、特に周りと相談することなく物事を進めていくようなタイプの指導者です。
このタイプの指導者の利点としては、指揮系統がはっきりしているということでしょう。
「監督は〇〇と言っていたけど、他のコーチは違うことを言う。どっちに従って判断すればいいんだ?」と言った選手の疑問が生まれることも少ないでしょう。
一方で、選手やチームスタッフは多くのことをその指導者の指示に従って行うため、やりがいを感じなくなる可能性があります。
「科学的な指導者」
• 測定可能な数値の研究と管理を非常に重視する。
• さまざまなトレーニング方法を使用し、場合によっては高度な技術的手段やリソースを使用。
• 選手たちは、スタッフの管理や測定に従う限り、指導者にとって重要な存在。
• 指導者の個人的な特性に応じて、トレーニング環境が多様化する。
• チームスタッフは、指導者が管理と測定を実行するのを支援する。
データを使いながら話すような指導者がこのタイプにあたります。
「試合中の選手の走行距離が相手より少ない。」「1対1での勝率が悪い」「セットプレーからの失点が多い」などなど、数値化されているデータをもとに練習などを考えます。
利点としては、データに表れている数値を示すことで、選手やスタッフを説得しやすいでしょう。
⑴指導者「ここ最近の試合でチームは全然走っていない。だから、今日は走るぞ!」
選手A「(いやでも、俺試合中結構走ってるんだけどな…。監督の言っていること間違ってるんじゃ…。)
⑵指導者「3試合前の試合で俺たちは勝った。その日のチームの平均走行距離は〇〇kmだった。しかし、ここ最近の試合では引き分け、さらには0-4と大量失点の試合もあった。これらの試合におけるチームの平均走行距離は3試合前の試合より明らかに少ない。だから、今日から週末の試合にかけて、練習中の運動量を厳しく求めていくぞ!」
選手A「(データに出てるんじゃそうなのか。走っているつもりだったけどな。あとでコーチにデータを見してもらおう!)」
⑴と⑵では、指導者の送るメッセージに対しての選手の受け取り方は異なるでしょう。
一方で、このタイプの指導者はデータばかりに意識がいき、頭でっかちな印象を与えてしまう可能性があります。
例えば、走行距離が多くてもただ闇雲に走っているのでは意味がありません。チームとして後退してブロックをしかなければいけない場面で、相手のGKまでボールを奪いに行ってそこからさらに他の選手までボールを奪いに行き、相手に簡単に前進を許してしまうような状況が繰り返しあるとします。必要なアクションをせず、無駄なアクションをしてチームが機能してないようであれば、いくらたくさん走ったと言っても効果はありません。
データを使う際には、「なぜ?」を考えることを習慣化することをお勧めします。
数値だけをみて全てを判断することは非常に危険です。理由は例で説明した通りです。
これが、スペインで分析官として働き、また多くの指導者たちと話してきた私の意見です。
「革新的な指導者」
・短期的な結果を得ることを目的として、物事を革新したり実験したりする傾向がある。
• 大量かつ多様なリソースを使用。
• 選手たちは、革新的なもしくは創造的なアイデアを実行する人たちであるため、指導者にとって非常に重要な存在。
• 練習の雰囲気は心地よく楽しい雰囲気。
• チームスタッフも助言したり、新しいことを試みたりしながら介入する。
私は昨シーズン(2022-2023)に臨時でユースBの第二監督を務めていました。この時の第一監督がこのような指導者でした。
この指導者は、シーズン途中でチームを率いることになった監督で、チームを1から作る時間はありませんでした。最初の数試合を前監督が使っていたシステムで行い、結果が振るいませんでした。そこで、この指導者は新しいシステムを適用しました。そして、一時的に数試合勝つことができました。その後、その変更後のシステムがうまくいかなくっては元のシステムに戻したりと、短期的な結果を得ることに目を向けていました。
また、それに伴いこの指導者は選手たちやチームスタッフに対しても、新しい意見を常に求めていました。
このような指導者になるためには、多くの知識が必要となります。言い方を変えると、持っている引き出しの数が多い必要があります。
引き出しの数が多いと言うことは、基本的に良いこととして捉えられますが使い方を間違えてしまうと悪い方向に進むこともあります。例えば、あれもこれもとコロコロと考え方を変えていると、チームの軸が定りません。
「結局、監督は何がしたいんだ?チームとして基本的な考え方がわからないから、咄嗟の問題に対応できない。」
こんな状況が起こる可能性があります。
実際、先ほど例に出したユースBの第一監督は、シーズン終盤に選手たちから多くの不満を抱かれることとなりました。この指導者に関して言えば、良くも悪くもこのタイプの指導者としての特徴が明確に現れる結果となりました。
「協力的な指導者」
・自分が支配してすべてを行うことはできないと考え、責任と仕事をチームスタッフ(専門家) に分配します。
• 各専門家(フィジカルトレーナー、ゴールキーパーコーチなど)の必要に応じて、大量かつ多様な特定のリソースを使用する。
• 選手は、指導者と選手の間の関係性とは異なる関係を、それぞれのチームスタッフと持つ。
• 練習の雰囲気は、前向き(ポジティブ)でリスペクトを持った雰囲気。
現アトレティコ•マドリッドの監督であるディエゴ•シメオネのイメージがこのタイプの指導者の特徴に当てはまると思います。
アトレティコ•マドリッドのフィジカルコーチであるオスカル・オルテガ(通称: オルテガ)の存在が、1つの根拠となると思います。シメオネと言うキャラクターの強い監督に隠れることなく、1チームのフィジカルコーチとしてサッカー界で注目されているフィジカルコーチは彼くらいでしょう。
つまり、ディエゴ•シメオネと言うサッカー指導者は各専門家にチームの仕事を明確に分配していると考えることができます。
一方で、このタイプのサッカー指導者は“伝統的な指導者”とは異なり、指揮系統が明確になりにくい傾向にあります。なぜなら、選手たちはそれぞれの専門家と関係性があり、多くの考えを受け取ることになるからです。
このような問題を避けるためには、チームスタッフ間で綿密にコミュニケーションを取ることが大事です。
「心理的な指導者」
・対話、言葉、個人的な関係を非常に重視する。
• 基本的な手段として言葉を使用するが、目的に応じて他の手段も使用する。
• 選手は重要な存在であり、指導者と良好な関係を築く。 チームの雰囲気は、良好で前向き。
• 指導者とチームスタッフの関係は良好で、指導者は彼らを信頼する。
このタイプのサッカー指導者は、選手やチームスタッフとの人間関係を非常に重要視します。彼らとのコミュニケーションも多く、サッカー以外にも日常的な会話も大切にします。
選手とだけではなく、チームスタッフとも信頼関係を築くことを大事にします。
一方で、このタイプの指導者は選手との距離が近くなり過ぎる場合もあります。これによって、練習や試合で指導者の考えを軽視してしまう可能性もなくはありません。
距離が近くなり過ぎて、選手と指導者の境界線が曖昧になることには注意が必要でしょう。
「完璧主義な指導者」
・練習や試合に関連する全てに対して非常に深く考え、良い所•悪い所をはっきり見分け、評価・判定する。 何事にも完璧を求める傾向がある。
• 使用される手段とリソースは継続的に評価され、適切でない場合は置き換えられる。
• 選手やアシスタントは、コーチの絶え間ない評価や完璧主義的な態度にプレッシャーを感じることがよくある。
• チームの雰囲気には緊張感があり、息苦しさがある。
完璧主義と聞いて、多くの人の頭にパッと思い浮かぶサッカー指導者はペップ•グアルディオラでしょう。
多くのタイトルを獲得しても尚、新しいことに挑戦し、またそのために選手たちに対して非常に高いレベルを要求するサッカー指導者としてのイメージを強く持つのがグアルディオラかと思います。
このように、チームや選手、チームスタッフの評価に対して白黒をはっきりさせるようなサッカー指導者がこの“完璧主義的な指導者”に当てはまります。
良い意味で言えば意識の高い監督ですが、その評価が不適切だと選手やチームスタッフに思われてしまうと、過剰な要求もしくは理不尽と受け取られてしまい、非常に危険でしょう。チーム内での人間関係の崩壊にもつながる可能性があります。
サッカー指導者とはどのようにあるべきなのか?
ここまで、何人かの有名なサッカー指導者の写真を使いながら6つのタイプのサッカー指導者を紹介してきましたが、それぞれのタイプと写真のサッカー指導者は皆さんにとって当てはまっていたでしょうか?
このような意見もあると思います。他にも「いーや!この指導者は絶対にこのタイプじゃない!」と思うような人もいると思います。
そして、これらの意見は至極正しいものです。
なぜなら、多くのサッカー指導者はこれらの指導者のタイプを状況によって使い分けているからです。
実際、写真に出てきたような有名なサッカー指導者と働いてみたら、持っていたイメージと全然違ったなんてこともあるでしょう。
つまり、今回の記事で伝えたいことは、次のことです。
様々な指導者のタイプを知り、状況によってそれらを使い分けることがサッカー指導者としては大事!
1つの指導者のタイプが他の指導者のタイプより常に優れているかと言ったことは考える必要がありません。考えるべきことは、今、その瞬間どの指導者のタイプを使うことが適切ななのかと言うことです。
実際に活用してみましょう!
最後に、ここまで紹介してきたことを活用してみましょう。
実際に考えてみることで、それぞれの指導者のタイプへの理解を深めることができます。状況に合わせて、異なるタイプの指導者になるためには理解を深めることが大事です。
自分自身を知ろう!
まずは、自分自身の性格・自然な状態がどのタイプの指導者に当てはまるのか考えてみましょう。
先ほど紹介した各タイプの特徴をもとに考えてみてください。また、そのように考えた理由も具体的に考えてみてください。
まずは自己分析から始めましょう!
【例】
今の自分を知ろう!
先ほども話しましたが、サッカー指導者において大事なことは「状況に応じて様々なタイプの指導者になる」と言うことです。
今現在の自分の役割やチーム活動の中で、自分自身がどのようなタイプの指導者として振る舞っているのか、これを考えてみましょう!
【例】
好みを認識する
自己分析をした上で、自分の好みのタイプの指導者を考えてみましょう。
自然な状態の自分や現状の自分の振る舞いが自分の好みの指導者のタイプであれば素晴らしいことです。しかし、そうではないと言う人もいるでしょう。
まずは、自分の好みの指導者のタイプを認識してみましょう。また、なぜそれが自分にとって好ましいのか、理由まで考えてみましょう。
【例】
身近な指導者を分析してみる
最後に身近な指導者を分析してみましょう!
有名なサッカー指導者の振る舞いはメディアを通して知ることしかできません。メディアを通して報道されることが、それらのサッカー指導者の全てではありません。つまり、その監督の持つ一面に過ぎません。
まずは、身近なサッカー指導者、普段多くの時間を共に過ごし、よく知っているサッカー指導者がどのタイプの振る舞いをしているのか考えてみましょう。また、それに伴って理由も考えてみましょう。
【例1】
【例2】
【例3】
ぜひ皆さんも6つの指導者のタイプをもとに考えてみてください!