サッカー

新チームとの最初のコンタクトで行うべき指導者の仕事

はじめに

今回は、新チームを率いる際にサッカー指導者が最初に行うべき仕事について話していきます。

スペインの場合、シーズン終了が5月末もしくは6月中旬となることが一般的です。一方で、日本の場合この時期は主要大会の予選があったり、予選免除されているチームは7月•8月の公式戦に向けて最後の追い込みをしているチームもあると思います。年代や地域によっては、秋からリーグ戦が始まる関係で夏から本格的にチーム活動に力を入れるという人もいるのではないでしょうか?

今回話す内容は、チームとして活動する一番最初の時にとても重要な内容となります。

指針を定める

スペインのマドリッドで行われたUEFA(ヨーロッパサッカー協会)サッカー指導者ライセンスの講習会の中で、次のような議題がありました。

新チームとの初コンタクトの日、つまりチームとしての初日に
あなたはサッカー指導者(監督)として、更衣室で選手たちに何を話しますか?

つまり、練習が始まる前の10分〜15分の更衣室での初コンタクトで選手たちに何を伝えるのか、ということです。

講習会の中では、指名された数名の参加者が実際に、参加者全員を自チームの選手に見立てて前に出て話をしました。

最初に話した人は、次のような内容でした。

私のチームは、攻撃的チームを目指す。フォーメーメーションは1−4−4−2で、常にサイドバックが高い位置を取り、チーム全員で攻撃に参加する。ボールを奪われたら、すぐにボールを奪いに行って、すぐに取り返して攻撃をし続ける。

皆さんであればどのようことを話すでしょうか?

ここで紹介した例では、チームの戦術について言及しています。どこまで細かく説明するかという話はおいといて、チームとしてどのようなサッカーをするのか、あるいはしたいのかをチーム内で共有しておくことは重要だと思います。

しかし、これはチームとの初コンタクトである初日に話すべき内容ではないということが、講習会での考え方です。私もこの意見に賛成です。 理由を説明していきます。

戦術はあくまで手段

戦術はあくまでも、サッカーというゲームで戦うための手段です。

クラブやチームの哲学が攻撃的なスタイルを目指しているからと言っても、時には異なる手段を取る必要があります。
マドリッドでは、このような状況に置かれることが頻繁にあります。

例えば、対レアル•マドリッド戦です。 スペインではスカウトや選手移籍が幼い年代から一般的です。そのため、レアル•マドリッドというクラブのチームは才能ある多くの選手たちで形成されています。このような個人に大きな差のあるチームとの対戦では、いかに優れてた戦術も机上の空論となり得ます。ボール保持を断念しダイレクトに相手ゴールに攻めたり、普段は積極的に前線からプレッシャーをかけにいくところを中盤でブロックを形成したりすることが必要になる状況があります。

スペイン1部リーグ(リーガ•エスパニョーラ)では、2022−2023シーズンのチャビ率いるバルセロナが中盤や低い位置で守備ブロックを形成したり、ボール保持に固執せずにダイレクトプレーを選択する機会がありました。
このことからも分かるとおり、戦術とはあくまで手段であり、目的ではないのです。

そのため、ここで戦術について話すことは「チーム活動の指針を定める」という内容からずれています。

サッカー指導者は形成者でもある

「サッカー指導者は形成者でもある。」

この一文は、講習会内で頻繁に出てきた言葉の一つです。
ここに“人格”という言葉をつけずに“形成者”と書くことには意味があります。

サッカー指導者は次のステップに進めるように選手を形成するという役割があるため、“人格”という言葉はつけません。特に、育成年代では“形成者”という言葉が使われます。しかし、サッカー指導者が選手に伝えることはテクニック(ボールを扱う技術)だけではありません。戦術、コーディーネーション(フィジカル)、メンタルの要素もあります。

そして、“人間教育”や“人格形成”という言葉は、ここで言うメンタルの要素とは異なります。これらの言葉を区別する時、メンタルと言う要素は「サッカーに必要な姿勢•取り組み方」と言えるでしょう。“人”としてどうかではありません。
もちろん、“人”としても良くサッカー選手としても良いメンタルを持っていれば、それは理想的です。

例えば、コミュニケーション•仲間意識は全ての年代に含まれるメンタルの要素に含まれるでしょう。ここに、その選手が所属するリーグレベルに応じて、競争心や向上心と言ったものが求められるようになります。

戦術やプレースタイルと言ったものはチーム活動の指針とはなりません。
なぜなら、チーム活動の指針をもとに、戦術の改善•向上を目指すからです。

   

では、実際にどのようなことを伝えるのか?

ここからは、チーム活動を開始する際に準備しておくことについて、選手対象だけでなく、チームスタッフのことも含めて話をしていきます。

 

この続きからは自由課金の記事となります。

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