サッカー

基本戦術とチーム戦術の違い

サッカー戦術は小さい子供から必要?

「サッカー戦術は中学生、もしくは高校生くらいになってからで良い。
それまでは、とにかく個人の技術を磨くことが大事」

とこのように考えるサッカー指導者が日本には多いと思います。
実際、小学生を対象とするサッカースクール(*サッカーチームではなくスクール)では、個人技術、ボールを扱う技術、特にドリブルの練習を行っています。今では、ドリブルに特化したスクールもあるくらいです。

では、なぜ日本のサッカースクールにはこのように個人技術に特化したスクールが多いのしょうか?言い方を変えると、なぜ日本のサッカースクールではサッカー戦術について教えないのでしょうか?

今回は、この疑問について話していきます。

サッカー戦術とは?

日本のサッカー指導者の人で次のようなことを言う人がいます。

戦術っていうのは、チームによって変わるものでしょ。スクール生の大半は、それぞれ違うチームに所属していて、れぞれのチームのやり方があるからスクールで教えても結局チームのやり方になるから意味ないんだよね。

これは、「サッカー戦術」というものを間違って解釈していることが原因と考えられます。

そこでまずは、サッカーにおける戦術とは何かについて考えていきましょう。

戦術とは…
状況を把握し、適切な判断をするためのもの。
*戦術: ②ある目的を達成するために取る手段、方法。
(参照:精選版 日本国語大辞典)

「状況による」
サッカー指導者ならよく聞く言葉だと思います。
しかし、この「状況による」ということを選手たちに指導者が教えないことがあります。そのため、試合中に「状況見て判断しろ!」と言われても、選手たちは何を基準にどのように状況を把握して、適切な判断をするのか分かりません。
それもそのはずです。なぜなら、その判断の基準となるものを指導者から教えてもらっていないからです。

さらに詳しく見ていきましょう。

サッカーにおける戦術には大きく分けて2つのものがあります。

  • 基本戦術
  • チーム戦術

基本戦術とは、その名の通り“基本的な”戦術です。
選手の特徴や指導者の考え方、相手との相性などの要素に左右されず、サッカーにおいて基本となる考え方です。

一方でチーム戦術とは、選手の特徴や指導者の考え方、相手との相性などの複数の要素を考慮して作られたチームとしての闘い方です。

 

日本では、「戦術」と「戦略」という言葉を使ってこれを説明していると思いますが、文字から想像がつきにくいと思いますので、当サイトではこのように定義します。
また、「個人戦術やグループ戦術は、どこに当たるんだ?」という疑問が生まれてくると思います。これらは、基本戦術の中に存在すると考えてください。

 

日本の指導者の多くが考えている戦術は、「チーム戦術」になります。
これは、説明にもある通り、所属するチームの監督によって変わります。そのため、活動するチームが変わるごとに、その考え方に適応する必要があります。
しかし、この無限にもあると思われるようなチーム戦術に素早く適応するために必要なことが、基本戦術です。

基本戦術とは、サッカーの基本的な考え方になります。
チーム戦術とは、このサッカーの基本的な考え方をもとに、指導者がそれぞれの考え方を取り入れたものになります。

以上のことから、基本戦術は、小さい子供の時から徐々に学んでいく必要があります。
この時注意してもらいたいことは、それぞれの年代に合わせた指導をすることです。これについては、別記事で話していますので参考にしてみてください。(小学生年代のサッカー指導について考える)

基本戦術とチーム戦術の具体例

今回は、サッカーの4つの局面の内、「攻撃」と「守備」における基本戦術とチーム戦術の違いについて見ていきます。

攻撃

まずは、攻撃のおさらいです。
攻撃には2種類ありました。

  1. コンビネーションプレー
    ➡︎ボールを保持しながら相手ゴールに向かって前進する攻撃
  2. ダイレクトプレー
    ➡︎直接的に相手ゴールに向かって前進する攻撃

それぞれについて、もう少し詳しく説明します。

コンビネーションプレーの場合、ボールを保持しながらの前進になるので、段階的に進むということが大事です。これは、ボールを保持しながら前進している場面をイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。

このため、チームで段差をつけるようにスペースを埋めることが必要になってきます。
(下図の左側)

次に、ダイレクトプレーについて考えていきましょう。
ダイレクトプレーとは、直接的に相手ゴールに向かって前進する攻撃でした。“直接的に”ということは、ロングボールの数が増えてきます。なぜなら、直接的にということは、パスのゴールに向かうまでのパスの本数を減らすことにつながるからです。少ないパスでサッカーのフィールドを前進しようとする時、1つ1つのパスの長さはおのずと長くなります。

では、ダイレクトプレーの場合、ロングボールを多用するため、人を段階的に配置する必要性はなくなるのでしょうか?

答えとしては、NOです。
下図を見てみましょう。

左の図は、ロングボールの先で数的優位を作ろうとあらかじめ、人をボールの行き先に配置したものです。右の図は、ロングボールを正確に蹴るために、ボール付近で数的優位を作り、プレッシャーのない状態でボールを前に蹴ることをしようとした場合のものです。

それぞれの図で、赤色のゾーンにボールがこぼれた場合、誰がそのボールを拾うことができるでしょうか?
もちろん、人はボールの移動中に動くことができますが、ロングボールをカットされた場合などではこのゾーンにすぐに人を送り込むことは難しいです。

以上のことから、コンビネーションプレーほどではなくともダイレクトプレーの場合でも、スペースを段階的に埋めることが必要なのです。

つまり、小ンビネーションプレーであろうが、ダイレクトプレーであろうが、「スペースを埋める」ということは基本的なことになります。

これが「基本戦術」です。

この時、いつ、誰が、どこを、どのように埋めるのかということが「チーム戦術」になります。

例えば、ダイレクトプレーの際に、相手を引きつけてからロングボールを蹴り、ロングボールの先で数的優位を作り前進するという大まかなチーム戦術があるとします。この時、相手を引きつける役割をセンターバック、ボールサイドのサイドバック、ボランチが担い、ロングボールの受け手をフォワードもしくはウイングとした時、セカンドボールを残りの選手が担うというようにすることがチーム戦術の詳細になります。
これをさらに明確に決めることも可能ですが、これも含めてチーム戦術の一環になります。

守備

次に、守備のおさらいです。
守備には3種類ありました。

  1. 高いブロック
    ➡︎チームの守備組織全体が相手陣地に入っている高い位置での守備
  2. 中盤のブロック
    ➡︎フィールド中央を中心にチームの守備組織全体がある中盤での守備
  3. 低いブロック
    ➡︎チームの守備組織全体が自陣に入っている低い位置での守備

守備において理解しておかなくてはいけないこと」という記事の中で、ボールを奪いに行った後の背後のスペースについて話しました。

これを理解すること、そしてこのスペースを誰かが埋めなくてはいけないこと、これらのことを「基本戦術」と言います。

上図をもとに考えてみましょう。
サイドバック(青)がボールを奪いにいきました。それに対して相手選手(赤)が、サイドバックが空けたスペースに対して走り込んできました。
この時、このスペースを埋めるアクションが必要です。[基本戦術]
このスペースを埋めるのが①MFなのか②CBなのかを決めることが「チーム戦術」です。
*ちなみにスペインでは、①と②のアクションに対して、それぞれ戦術めいがあります。

ボールを奪いに行った選手が元いたスペースを埋めるということは、守備の3種類の内どれを選んでも変わりません。また、どんなシステム•フォーメーションを使ったとしても変わりません。

ここまで、具体的な例とともに、基本戦術とチーム戦術の違いについて話してきましたが、基本的な戦術をあえて無視することもチーム戦術と言えます。
例えば、守備の時を想像してみてください。
サイドバックが相手のサイドハーフの選手に対して、ボールを奪いにいきました。本来、基本戦術通りであれば、このスペースを誰かが埋める必要があります。しかし、そのスペースを埋めに行くということは、また別のスペースを空けることになります。その別のスペースの方が優先順位が高い場合、あえてサイドバックの選手が空けたスペースを埋めないという方法もあります。そのスペースに相手選手が走り込んできた際に付いていくだけで、相手のそのアクションがない限り、サイドバックが空けたスペースを埋めないでおくということです。
もし仮に、チームとしてサイドバックが空けたスペースをセンターバックが埋めるとなっていた時、自陣ゴールの近くで相手がこのスペースに入ってきた時、これに対してセンターバックの選手がボールの方へ飛び出して行った場合、自陣ペナルティエリア内の守備の人数が足りなくなります。このことが原因で、自陣ゴール付近で数的優位を作られゴールを決められたとします。守備の目的である「自陣ゴールを守る」ということが達成できなくなります。これを防ぐために、センターバックはサイドバックが空けたスペースを埋めないということがあります。
これもチーム戦術です。

ただし、これを理解するためには、守備の目的やボールを奪いにいくということの意味と言った基本戦術を知っておくことが必要です。

最後に

今回の記事を通して、少しでもサッカー戦術に関する指導の重要性について理解していただければ幸いです。

近年では、「賢い選手」「サッカーIQの高い選手」「戦術理解度の高い選手」などといった言葉が使われるように、技術だけではなく、戦術にも注目が集まっていることが見受けられます。

サッカー指導者の人は、これを曖昧にするのではなく、賢い選手を育てるために何が必要なのかを理解しておく必要があります。
そして、言葉だけではなく、実際のトレーニングでそれを選手に落とし込めるようにならなければいけません。

個人的な意見ですが、小さい子供にサッカーを教えることは、大人にサッカーを教えることよりも大変です。
なぜなら、大人にもなればサッカーの経験も豊富で、サッカーに対する知識もついているため、1から全てを教える必要がありません。しかし、サッカーを始めたばかりの選手や小さい子供たちは、知らないことがたくさんあります。また、戦術だけではなく、技術やコーディネーションにおいても目を向けなければいけないことがたくさんあります。それらの指導•トレーニングのバランスをとることも求められます。

一方で、小さい頃から戦術、つまりサッカーを理解することに触れてこなかった選手たちは、大人になってとても苦労します。スペインにくる日本人サッカー選手(留学)の多くが、戦術理解•サッカー理解に苦労していることを私は何度も見てきました。

 

最後に、サッカーはチームスポーツである以上、チームで情報を共有する必要があります。

ある基準[戦術]をもとに、適切な判断をする必要があります。
この基準がバラバラであれば、選手それぞれのプレーもバラバラになり、チームとして機能しないでしょう。
この基準を選手に与えることが、サッカー指導者の仕事でもあります。これは選手の仕事ではありません。

日本ではもうすぐ年度変わりがあります。きっと、多くのサッカー指導者が1年の指導プランを考えていると思います。その中に、技術やコーディネーションだけではなく、戦術についても組み込むようにしてみてください。