サッカー

1週間にどれくらいトレーニングするのか②〜実践編〜

実践編

「1週間にどれくらいトレーニングするのか」の第2回の今回は、実践編です。

実際に1週間をどのようにプランニングするのか、今回は具体的にどんなトレーニングをするかではなく、「1週間の流れについて」見ていきます。

最初に、スペインで一般的に行われている1週間の流れを確認した後に、さまざまなシチュエーションに対応した1週間の流れを紹介します。

例えば、月•水•金と週に3回のトレーニングがあり、一回のトレーニング時間が60分(1時間)の時、各曜日にどのようなことをテーマに行うのかについて考えていきます。

これから話す内容は、以前話した「サッカーにおけるプレー強度」の記事を読むとさらに、理解していただけるかと思います。是非、そちらも目を通して見てください。

トレーニングの強度から考える

スペインでは、基本的に年間を通して、毎週末に公式(サッカー協会が主催する)リーグ戦の試合があります。これは、日本とスペインの大きな違いと言えるでしょう。

そのため、1週間の予定はリーグ戦の試合をもとに考えていくことになります。

第1回の「スペインの場合」で話しましたが、スペインの多くのチームは週に3回のトレーニングを行います。そして、週末の土曜日もしくは日曜日にリーグ戦の試合があります。
以上のことを踏まえて、表に一般的なスペインでの1週間の流れをまとめます。

土曜日 日曜日 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日 日曜日
リーグ   練習   練習   練習 リーグ
リーグ   練習   練習   練習  リーグ

ここでは、まず2つの場合を紹介します。

①リーグ戦翌日に練習があり、次のリーグ戦の前日が休みの場合

②リーグ戦翌日が休みで、次のリーグ戦の翌日に練習がある場合

この2つの場合について詳しく話す前に、基本的な考え方について抑えます。

*トレーニング強度には、弱•中•強の三段階があると考えます。

  • 最初のトレーニング: 弱or中
  • 真ん中のトレーニング: 強
  • 最後のトレーニング: 弱or中

これを踏まえて、先ほどの2つのケースについて話します。

①リーグ戦翌日に練習があり、次のリーグ戦の前日が休みの場合

リーグ戦の翌日に最初のトレーニングがある場合は、トレーニング全体の強度は弱が良いでしょう。
なぜなら、翌日であれば試合の疲労が残っています。特に、その試合をフルで出た選手です。疲労が残った状態でトレーニング強度の強いものを行なってしますと、怪我につながります。
例えば、試合に多く出た選手(試合時間の約7割〜8割に出場した選手)とそうではない選手でグループを分けます。前者は主に回復トレーニングを行い、後者は普段のトレーニングを行います。

回復トレーニングとは、その日の練習の最初に筋膜ローラーなどで筋肉をほぐした後に、負荷の少ないトレーニングを行うものです。負荷の少ないトレーニングを考える時には、できるだけ選手にスプリントが求められないものを考えましょう。例えば、短い距離でのパス&コントロールやポジション•役割を固定したボール保持などです。
回復トレーニングをするグループが筋膜ローラーなどをする一方で、もう一つのグループは、フィジカルトレーニングを行います。例えば、腕立て伏せ、スクワットなどです。
そしてその後、一般的なトレーニングを行います。例えば、攻守の切り替えのあるボール保持をした後、ダブルボックス(ペナルティーエリア2個分のスペース)の試合をして練習を終えます。最後のダブルボックスでの試合には、回復トレーニング組はフリーマンとして参加するもしくは、全く参加せずに早めに切り上げたりします。これは、選手の疲労度に寄ります。

次に、試合前最後のトレーニングについてです。
今回の場合は、次の日(試合前日)が休みです。この場合、トレーニング強度は、中にすると良いでしょう。なぜなら、翌日の丸一日を使えば、仮に疲労度が高くてもある程度回復することが可能です。

②リーグ戦翌日が休みで、次のリーグ戦の翌日に練習がある場合

リーグ戦の翌日が休みでトレーニングがない場合は、トレーニング全体の強度は中が良いでしょう。先ほどの、試合最後のトレーニングと同様です。
試合の疲労度も丸一日あれば、ある程度回復する事が可能です。一方で、試合翌日の選手の身体的ケアをチームでコントロールする事ができないのが難点です。

次に、試合前最後のトレーニングについてですが、今回の場合は翌日に試合があります。
この場合、ある程度強度のあるトレーニング(強度:中)をしてしまうと、試合に疲労感を持ちながら臨むことになります。そのため、トレーニング全体の強度は少し落とした方が良いです。ただし、翌日に試合を控えているので、競技レベルを落とすわけにはいきません。
例えば、60分で4つのトレーニングを準備したとします。
①セットプレーの確認、②切り替えのトレーニング、③フィニッシュのトレーニング、④ダブルボックスの試合。
最初のトレーニングである程度強度を上げた後に、相手のいないフィニッシュのトレーニングをします。ちなみに、これはプレーの形と組み合わせたシュートトレーニングがおすすめです。そして、最後に短い時間で競技性の高い状態でダブルボックスの試合をしてトレーニングを終えます。競技性が高い状態を作るために、チームごとに勝ち点もしくはゴール数を数え、最後に一番点の多かったチームを決めるといった事がおすすめです。

なぜ試合前に練習しないの?

スペインの1週間の流れを話した時に、一番多く受ける質問があります。

どうして、試合前日にトレーニングしなの?

プロチームやセミプロの上位リーグにもなると、意図的に試合前日にトレーニングするようなチームもあります。また、アマチュアの1クラブでは、1つのグラウンドを複数のチームで使うことになり、試合の日程によって練習の日を変えることが非常に難しいです。そのため、意図しない形で試合の前日にトレーニングしないということが起こります。

じゃあ、試合前日にはトレーニングする方が理想ではあるの?

これを答えるためには、2つのことを考えます。
1つは選手の能力、もう1つは監督•スタッフの考え方です。

前回の話の最後でも言いましたが、「休むこともトレーニング」です。

日本では、しばしば休むこと自体を「サボり」と1つに括り、まるで悪いことにいいう人がいます。
「もっと上手くなりたければ、もっと練習しろ!」
確かに一理ありますが、練習のしすぎで怪我をしたり、疲労感が残ったまま中途半端なトレーニングを繰り返すよりも、しっかり休んで実りのあるトレーニングを数回行うことの方が上達につながります。
まずは「休むことは良いこと」「休むこともトレーニング」という意識を持ちましょう。

まず、選手の能力について話します。
例えば、チーム全体のレベルが所属するリーグを戦う上で、周りのチームと比べて少し劣る、それでも選手たちには上手くなりたいというモチベーションが非常に強くあるという場合について考えます。これは日本でよくあることです。
“チームの全体•選手個人のレベルを上げるためにも毎回の練習の強度は落とせない。金曜日のトレーニングも強度を持って行いたい。”となる場合、もし練習試合や公式戦の日程を土曜日と日曜日で選べるのであれば、日曜日を選ぶと良いでしょう。
土曜日は、身体的にも精神的にもリフレッシュしてもらう日にしましょう。
逆に、試合日程は決まっているが練習の日を選べるのであれば、これも同様です。チームの状況と選手の能力を考慮して組みましょう。

次に、監督•スタッフの考え方について話します。
サッカー指導者にはそれぞれの考え方があります。その考え方と選手の能力をもとにチームが作られていきます。
サッカー指導者の考え方には大きく分けて2つあります。
1つは、前日のトレーニングでセットプレーなどの確認作業をしたいというものです。この時、注意しなくてはいけないことはトレーニング全体の強度です。強度: 弱とことを考えましょう。
2つ目は、試合前日は家族や友人、恋人と時間を過ごし、身体的にも精神的にもリフレッシュしてもらいたいという考えです。これはチームとしてのセットプレーの決まり事が多くない場合や、週全体を通して強度の高いトレーニングを行った場合にある考え方です。

特に、アマチュアの中でも育成年代では、2つ目の考え方を持つ指導者が多いと思います。日本に適用するのであれば、「休むこともトレーニング」という考え方を覚えてもらうためにも週末のどちらかを休みにすることや試合前日の日を休みにすることは悪い考えではないと思います。

練習回数と時間はどのように決める?

今回のテーマは、サブタイトルにもあるように「実践」です。

では、実際にどのようにチームの練習回数と時間を決めるのでしょうか?

これは選手のレベルに依ります。

週に何回?

前回の話で、中学校2•3年生の年代からは、スペインでも週に4回トレーニングするチームが出てくるという話をしました。そして、高校生年代になると所属するリーグのレベルによって、チームの練習回数が増えるということも話しました。

では、中学校2•3年生の年代で週4回練習するチームとは、どういうチームなのでしょうか?

それは、アトレティコ•マドリッドの育成年代のチームなど、自クラブの充実したグラウンドを持ちかつ、4回という練習回数の強度に対応できるフィジカルコディションを持つチームです。

日本では一般的ではありませんが、スペインではスカウトが一般的です。
そのため、所属するリーグによってチームのレベルが明らかに変わります。その一つが、フィジカルコンディションです。フィジカルコンディションとは、単に体が大きい、小さいだけの話ではありません。運動能力(基本的な動作)、可動性、バランス、敏捷性、力(パワー)、持久力、スピード、瞬発力、サッカーにおける特別な能力(*技術的なもの)など様々なものがあります。

スカウトが一般的なスペインでは、チームによってある程度、選手が対応できるトレーニング強度が決まります。そして、このフィジカルコンディションが高い選手たちは、基本的に上位のリーグに所属しているため、高校生年代になってくると上のリーグになればなるほど、週のトレーニングが回数を4回にするチームが増えます。

もし自チームの週のトレーニング回数に疑問があれば、私のおすすめは週3回のトレーニングです。これは、どの年代においてもです。
小学校高学年に上がるまでは、基本的に週2回のトレーニングで問題ないと考えます。

もし仮に、週3回のトレーニングで、チーム内に疲労感を覚える選手がいなければ、週4回にしても良いと思います。ただし、これは毎回の練習で、求められているプレー強度を実行している事が大前提です。

ちなみに、週5回のトレーニングをするチーム、スペインの場合プロのチームもしくはセミプロの一部のチームのみだそうです。ただし、これは選手の能力がその負荷に対応することができるからです。

一回の練習時間は?

次に、一回の練習時間をどのくらいの長さに設定するかについて話します。

各年代のトレーニング時間は、前回の「スペインの場合」の記事で紹介したものを参考にしていただくと良いと思います。

ここでは、1日のトレーニング時間の上限について考えます。

1日のトレーニング時間の上限は、約2時間半[150分]です。

これ以上の時間トレーニングを行うことは、集中力も続きませんし、怪我にもつながりやすくなります。
しかし、これは1日の上限であり、1回のトレーニングの上限ではありません。プロチームにもなると、1日に2回のトレーニングを行うところもあります。特に、リーグ戦が開幕する前のプレシーズン期間には、多くのプロチームが2部練と呼ばれるものを行います。

トレーニングと言っても、ボールを使ったサッカーのトレーニングだけではありません。この2時間半には、ジムなどで行うフィジカルトレーニングの時間も含まれます。

例えば、チームの全体練習が75分だったとします。チームとは別で、個人でフィジカルトレーニングをすると考える時、その時間は約75分、1時間ちょっとになります。

私がスペインで最初に受けた講習では、練習時間はどんなに長くても70分〜90分の間にまとめるように言われました。もちろん、この70分〜90分の間にはウォーミングアップも含まれます。

ちなみに育成年代では、プロクラブと呼ばれるチーム(*トップチームがプロリーグに所属しているクラブのチーム)でも一回のトレーニング時間は70分〜90分です。

さまざまなシチュエーション

ここからは、いくつかのチームレベルをもとに、1週間のトレーニングの流れの例を紹介します。

チームの1週間のトレーニング回数が2回の場合
日曜日 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日 日曜日
強度 強度: 中 強度: 強 (強度: 強)
テーマ  攻撃  守備  試合
チームの1週間のトレーニング回数が3回の場合
日曜日 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日 日曜日
強度 (強度:強) 強度: 中 強度: 強 強度: 中 (強度: 強)
テーマ 試合  攻撃  守備 切り替え  試合
チームの1週間のトレーニング回数が4回の場合
日曜日 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日 土曜日 日曜日
強度 (強度:強) 強度: 弱 強度: 中 強度: 強 強度: 中 (強度: 強)
テーマ 試合 攻撃 攻撃 守備 切り替え  試合
チームの1週間のトレーニング回数が5回の場合
日曜日 月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日  土曜日  日曜日
強度   (強)    弱    中    強    中     弱    (強)
テーマ   試合   攻撃   攻撃   守備 切り替え セットプレー  試合
チームの1回の練習時間が1時間以下の場合
時間 内容 ポイント
10分 ウォーミングアップ ボールを使わないものと使うもの(2種類)
10分 メイントレーニング① グループで行うもの
15分 メイントレーニング② チーム全体で行うもの
15分 メイントレーニング③ ゴールのあるもの
10分 ゲーム その日の練習の成果の確認
(5分) グラウンドの外でストレッチ 怪我予防・コミュニケーション

*3つあるメイントレーニングの中に、優先順位をつけておきましょう。
例えば、メイントレーニング②を一番練習したいのであれば、メイントレーニング③は最悪なく経っても問題ないくらいに考えておきましょう。もしくはメイントレーニング③を一番に練習したいのであれば、メイントレーニング③を始める時間を設定して、それまでに他のトレーニングを終えましょう。(例: 練習開始17:00 トレーニング③を17:35までには始める、最後のゲームは少なくとも5分は行う。)

 

最後に

今回の話を簡単に書きにまとめます。

今回のまとめ
  • 休むこともトレーニング
  • 選手のレベルに依って、練習回数・練習時間を決める

周りがたくさんの時間を練習に費やしているからと言って、じゃあ自分もとならないようにきをつけてください。選手の能力、週何回のトレーニングの負荷に耐えられる選手たちなのかをよく考えてください。

リーグ戦が一般的ではなく、かつスカウトも一般的ではない日本では、この判断が非常に難しいです。なぜなら、チーム全体の能力を判断する基準がないからです。

しかしだからと言って、考えることをやめてはいけません。
選手たちが、できる限り好きなだけサッカーを楽しんでもらうためにも、1週間のトレーニングの強度をコントロールすることは非常に重要です。
怪我やストレスが原因で、選手の意思とは関係ない形でサッカーを離れると言った私たちにとって悲しいことを避ける努力をしましょう。

「そもそも休むことは悪いことではない」「休むこともトレーニング」

この意識を持ちましょう。
その上で、1回1回のトレーニングの質を高めましょう!