サッカー

1週間にどれくらいトレーニングするのか① 〜スペインの場合〜

はじめに

今回は、1週間の練習回数とその時間について2回に分けて話していきます。

日本では「練習をすればするほどチーム•選手にとって良い」と、このように考えている人が多くいると思います。
その代表的なものが、部活です。

1週間に平日4回、自主練習も含めると平日に5回、1日2時間もしくは3時間練習するチームがあります。また、週末には土曜日•日曜日の2日間にわたって、練習試合を丸一日行ったりします。

過度な練習は怪我の要因になります。
怪我が原因で好きなスポーツを離れることは、とても悲しいことだと思います。プレーすることだけが、好きなスポーツへの関わり方ではありませんが、そのスポーツではなく、プレーすること自体が好きな人はたくさんいます。それを怪我で断念することはできる限り避けるべきです。
当たり前ですが、サッカーというスポーツは身体的に人と人がぶつかることが頻繁にあります。そのため、未然に防ぐことが難しい怪我もたくさんあります。
その一方で、オーバートレーニングなど、不適切なトレーニングで怪我をしてしまうことは、予防することできます。

不適切なトレーニングを避けるためには、選手だけでなく、指導者•保護者に正しい知識が必要になります。
この記事をきっかけに、すべてのサッカー関係者が、選手への体への負荷について改めて考えていただけると幸いです。

スペインの一般的な1週間

2回に分けて話す内の1回目の今回は、スペインの一般的な1週間のトレーニングのスケジュールを紹介します。

ここで紹介する一般的なトレーニングスケジュールは、以下のことをもとに話します。

  1. スペインのマドリッド州のチーム
  2. 7歳〜大人までのアマチュアサッカーのチーム
  3. レアル•マドリッド、アトレティコ•マドリッドの育成年代のチーム(カンテラ)と、大人年代のプロリーグ(1部•2部リーグ)は含まない。

これらの条件を踏まえて、スペインの1週間についてまずは簡単にまとめます。

  • 1回のトレーニングは60分〜90分(多くのチームが1回75分ほど)
  • 1週間のトレーニング回数はほとんどのチームが3回(2〜4回/週)

これらの特徴は、年代やチームが所属しているリーグのレベルに応じて多少変わりますが、基本的にはほぼ全てのチームがこのスケジュールです。
私が実際にスペインのマドリッドで目にしてきたチームをもとに、例を年代別に紹介します。

幼稚(保育)年長•小学校1年生(プレベンハミン) 

週2回のトレーニング
1回のトレーニング60分

この年代では、集中力の観点から1回のトレーニングは、だいたい60分間です。
この年代において重要なことは、選手がサッカーをプレーすることを楽しみにして、グラウンドに来てもらうことです。

練習回数を増やしても、週3回程度がいいでしょう。
サッカーに対して過度なストレスを抱えないためにも練習頻度は多くしすぎない方がいいかと思います。練習のない日に、次の日のサッカーする日が楽しみで仕方がないくらいがちょうどいいと思います。

ただし、“サッカーを始めた時期がチームメイトに比べて少し遅く、技術的に楽しめないように思える”と言った不安を覚える場合は、サッカークリニックなどのイベントやスクールを活用するといいと思います。

小学校2•3年生(ベンハミン)

週2回のトレーニング
1回のトレーニング60分

この年代は、先ほどの年代と同様のイメージを持っていただくといいかもしれません。

先ほどの年代と、この年代で異なることはトレーニングの内容になります。
最も大きな違いはチームスポーツとしての意識を高めることです。

チームスポーツとしての意識というのは、フィールド上でのプレーだけでなく、チームとしての取り組みも含まれます。例えば、5対2にボール保持といった集団的プレーだけでなく、試合中に味方のミスがあった時にチームメイトを励ますといったことにも取り組み始める必要があります。

小学校4•5年生(アレビン)

週3回のトレーニング
1回のトレーニング70分

この年代からは、スペイン•マドリッドでは一般的に週3回のトレーニングになります。
1つ前の年代で取り組んできたことを、より強化していくことになります。

この年代からは、サッカーのトレーニングに加えて、フィジカルトレーニングが練習前に入ります。フィジカルトレーニングと言っても、重りや器具を使ったトレーニングでもなければ、単純な筋トレだけでもありません。
体幹トレーニングなどの自重で行うものや、ボールを使ったものになります。日本サッカー界では「ウォーミングアップ」として捉えらることもあります。

私のいるクラブでは、ユースやトップ•セカンドチームを除いて、すべてのチームがグラウンドを1回1時間使用できます。このグラウンドで行う1時間の練習の前に、約10分間グラウンドの周りにあるスペースで「ウォーミングアップ」あるいは「フィジカルトレーニング」を行います。

小学校6年生•中学校1年生(インファンティル)

週3回のトレーニング
1回のトレーニング70分

この年代とこの1つ前の年代には、大きな違いはありません。

大きな違いはないと言いましたが、トレーニングの強度には違いが出てきます。
経験則でしかありませんが、小学校高学年から中学校の間は、選手個々の身体的成長に差が出ます。これを練習でも配慮する必要があります。
一方で、この年代から前の年代までで比較的サッカーについての技術•戦術の知識を持っているので、選手自身がフィールド上で起こっている現象を自分なりに解釈し始めることを促すことが可能です。
つまり、選手を評価あるいはトレーニングするときに、身体的能力にフォーカスしすぎることなく、頭を使うことにフォーカスすることが大事です。

間違えないでもらいたいことは、「選手に考えてもらうことを促す」といって、指導者が介入しないというわけではありません。例を出します。

【4対4+4フリーマン(フリーマンは四角形の各辺に1人ずつ)】
指導者: 「今はどうゆう状況かな?ボールを持っているチームは何人で、ボールを持っていないチームは何人かな?」

選手:「8人対4人」

指導者:「じゃあ、何人のフリーの選手がいると思う?そして、その選手はどこで見つけやすそう?」

選手:「4人、見つけやすいのはフリーマンが外にいるから外側。」

指導者: 「いいね! 今四角形の中で4対4で同じ人数だよね。外側にフリーマンがいるから音側にパスコースを見つけやすいね。とにかく、素早くフリーの人を見つけて、素早くプレーすることを意識しよう。そのためには、外側だけじゃなくて、四角の中の選手もパスコースを作ろう。」

指導者は、選手以上にサッカーの知識や考えを学び続ける必要があります。

中学校2•3年生(カデーテ)

週3回のトレーニング
1回のトレーニング80分

この年代からは所属するリーグのレベルによって週4回のトレーニングを行うチームもいくつかあります。

またこの年代はチームによって「ウォーミングアップ」あるいは「フィジカルトレーニング」といったものだけでなく、ミクロコンセプトと呼ばれるトレーニングを行うことがあります。
ミクロコンセプトとは、小さなグループにおける考え方• トレーニングになります。
例えば、1対1のトレーニング(条件付き: 浮き玉の競り合い、ミニゴールへのシュートなど)、2対1などがあります。

そのため、メイントレーニング60分の前に、より多くの時間を設ける場合があります。

高校1•2•3年生(フベニール)

週3回のトレーニング
1回のトレーニング90分

この年代から、プレー強度のレベルが上がります。
週4回のトレーニングを設けるチームは、リーグのレベルが上がれば上がるほど、より一般的なものになります。

所属するリーグのプレー強度に適応するために、メイントレーニング前のフィジカルトレーニングの時間が増えます。前回の記事で、フィジカルトレーニングにおいても、身体的•技術的•戦術的なものがあると話しました。(サッカーにおけるプレー強度)
それらのトレーニングに器具を用いた行うものが出てきます。例えば、お守りを持った状態でのランジを10回行った後にスプリントなど、さまざまなものがあります。ちなみに、これは専門家の範囲になります。スペインでは、サッカーに特化したフィジカルコーチが多くいますので、彼らが主導で準備します。

大人年代 (セニオール)

週3回のトレーニング
1回のトレーニング75分

ここで話すチームは、冒頭にも伝えましたが、アマチュアのチームについてです。
アマチュアの場合、仕事終わりに練習に来たり、30歳を超えるベテランの選手がいたりと練習時間について考慮しなくてはいけない点がさまざまあります。当たり前ですが、勤めている職場、自営業かどうかによって1週間の予定に融通がきくかどうか異なります。

そのため、基本的にこの年代では、週3回のトレーニング、トレーニングの時間は1回75分程度になります。
15分ウォーミングアップ+60分メイントレーニング
最初の15分が重要になってきます。特に、ベテランの選手を多く抱えている場合は、怪我に最大限注意しなければなりません。

次回の予告

第一回目の今回は、スペインの実際の1週間について見てきました。

日本の同じ年代と比べると、練習時間•練習回数と共に、非常に少ないと思います。
実際にスペインにサッカー留学しにくる日本人選手は、みんな次のように言います。

「練習時間が短い。物足りない。」

ただし、彼らを見る指導者たちの評価は異なります。

「彼らは練習中に走らない。スプリントの回数が少ない。判断が遅い。」

サッカー留学に来るすべての選手が、今挙げた例のようなわけではありませんが、「練習時間が足りない。物足りない。」という選手は、私の経験則では監督から「練習中のプレー強度が足りない。」という評価を得ています。

一方で、スペインのサッカー指導者や選手に、「日本では、1日に3•4時間練習したり、週末の1日中練習試合をしたりするんだけど、どう思う?」と聞くと次ように返ってきます。

「考えられない。良く怪我しないね。」

私のクラブのトップチームのフィジカルコーチに同じような質問をした時に次のようなことを言われました。

「もし毎日のように何時間も練習しようとしている人がいたら、こう言ってあげな。休むことも練習だよって!その日のトレーニングの疲れをしっかり取って、次の練習に万全の状態で臨むために休みの日を作らないと。体をリフレッシュするだけではなくて、心もリフレッシュすることが必要だから。これは本当に大切だよ!」

次回も少し話す予定ですが、プロチームやそれらのユーストップは基本的に午前中もしくは日中にトレーニングをします。そして、彼らは他の仕事はありません。彼らに残る仕事は、午後ゆっくり休んで、よく寝て、次の日トレーニングに臨むことです。

一方で、アマチュアや学生の場合は、サッカーのトレーニング以外にも勉強や仕事があります。1週間や週末をトレーニング漬けにしてしまうと、体も心も休める事ができません。

次回は、1週間のトレーニングの強度をどのようにコントロールするのか、なぜチームが所属するリーグのレベルに応じて、トレーニング内容や頻度が変わるのかについて話します。

COMMENT