海外への選手を輩出することで得た成果
今回の2022年カタールW杯において、サッカー男子日本代表は大きな結果を出したと思います。
悲願のベスト8以上の結果には届かなかったものの、グループリーグではヨーロッパの強豪国であるドイツ・スペインに勝利を納め、ドイツを抑えてスペインと共にグループリーグを突破しました。
日本代表のこの快進撃の1つの要因は「競技レベルのより高い欧州のクラブに所属する選手が増えたこと」でしょう。
確かに以前から、日本代表の多くの選手が海外でプレーしていました。
しかし、欧州主要リーグと言われるイングランド・ドイツ・スペインにこれほどまでに多くの日本代表選手が集まったことはありません。
また、その中にはヨーロッパリーグへの出場者もいます。そして、多くの選手が“所属”に留まらず、“試合に出る選手”として各クラブに在籍しています。
日本では、リーグよりトーナメント形式の大会が重要視される傾向にあります。特に、育成年代においてはそれが顕著だと思います。最近では、リーグ戦を地域や各企業の力によって開催していますが、個人的な経験上スペインに比べると、リーグ戦を戦う文化が定着していません。
そのため、1シーズンを競技性の高いリーグで戦うことへの評価が十分でない場合があります。日本では、“在籍[所属]の有無”で選手を評価する傾向があります。例えば、「〇〇チーム出身」と経歴を語る人もいます。
しかし、評価させるべきことは、“試合にどれだけ出ているのか[出ていたのか]”と言うことです。
このことから、今回の日本代表選手は間違いなく、ある一定の評価をされるべき選手たちです。
他にも、日本の快進撃には様々な要因があると思いますが、これは1つの要因と言えるのではないでしょうか?
つまり、ここで言いたいことは下記のことです。
サッカー男子日本代表は、選手を海外に輩出することで1つの成果をあげた。
国内の競技レベル向上に目を向けるべき
ここで1つ質問です。
日本は、このまま海外に良い選手を輩出することで成長することを続けるべきだと思いますか?
当サイトの答えは、NOです。
これを説明するために、ここから3つのテーマについて話をします。
日本サッカーの人気
サッカーにおける人気とは、どのように生まれるのでしょうか?
ここでは2つのことを紹介します。
①地域密着型
②優越型
①の地域密着型の場合、サッカーを行うチーム・団体[リーグ]・国などへの愛着から人気が生まれます。どんな結果であれ、周囲からの人気を集めます。
一番の例が、国別代表チームです。サッカーのプレー経験の有無や日頃からサッカーを見ているかいないかは関係なしに、国民であればそのチームを応援します。もちろん、そうではないと言う人もいます。それについては、次の優越型で説明します。
②の優越型とは、サッカーを行うチーム・団体[リーグ]・国などのレベルが他と比べたときに、より優れている方に人気が生まれることを言います。
例えば、Jリーグを見るより、欧州のサッカーを見る方が好きという人には、このような考え方を持つ人が多いと思います。Jリーグより、イングランドプレミアリーグの方が、プレーのレベルが高くて見ていて面白いと思う人もいるでしょう。選手であればよりレベルの高いところでプレーしてみたいと考えたときには、欧州のサッカーリーグが頭に浮かぶでしょう。
現状の日本では、①の地域密着型については、Jリーグ開幕から約30年の間、特にここ数年で成果を生んでいると思います。J3、JFLのチームに少しずつ人気が出ていることが1つの例だと考えます。
一方で、②の優越型については、改善の余地がまだあると考えます。
地域密着型を推進するとともに、優越型を進める必要があると考えます。
国外からの集客
昨今のイングランドプレミアリーグの発展は、なぜ起きたのでしょうか?
一言で言えば、お金です。
各クラブの財源の大きさがイングランドプレミアリーグの発展に繋がっていると考えます。
多くの財源を得ることで、より良い環境を生み出し[スタジアム建設など]、より良い選手・監督を獲得し、クラブ自体に価値をつけてきています。
そして、その財源は国内のみならず、海外まで広がっています。
- 放映権料
- スポンサー収入
- 事業収入
- 選手の売買
など
人口減少傾向にある日本において、地域密着型のみでの発展には限界があるでしょう。
しかし、欧州サッカーのように国外からの人気も得ることができれば、日本サッカー界にとって大きな財源となり得るでしょう。
まずは、近隣のアジアの国々、あるいは既に関係の深い国[例:アメリカ]からの注目を集めるべきです。
ここで質問です。
皆さんがもし、イングランドに10日間サッカーの試合を観に行くとしたら、本当にサッカーだけを見に行きますか?サッカーの試合の時間以外はホテルに滞在しますか?
空き時間でその地域を観光したりしませんか?
日本は、現状世界では平和な国として知られており、また地域によって特色のある国です。海外の人をサッカーで魅了することを目指すとともに、地域密着の観光業を組み合わせることでより多くの国外からの集客を得ることが可能でしょう。
多くの人から注目を集めることで、放映権料・事業収入[グッズ販売など]の向上につながり、遠くない未来には日本にビッグクラブが生まれるかもしれません。
国内の雇用確保
国内クラブがお金を増やし、事業を拡大していけば、雇用の数も増えるはずです。
例えば、トップチームしか持っていなかったクラブが、6歳から18歳までのチームをいくつか作ったとき、そこにはサッカー指導者への雇用が生まれます。また、各チームで専門性をつける場合、より多くのサッカー指導者が必要になります。
[第一監督・第二監督・分析官・アシスタントコーチ・フィジカルコーチ・トレーナー・スポーツドクター・栄養士・主務など]
さらに、クラブ私営のグラウンドを作れば、そこを管理する管理人、道具を管理する人、セキュリティーなど様々な雇用が生まれます。
日本では、第2種[高校生年代]と第1種[社会人]の間には、日本サッカー協会への選手登録数に大きな差があります。つまり、仕事に就くとともにサッカーを離れる人が多いです。
それはなぜか?
私の友人で仕事をしながら、社会人リーグのチームに所属している人がいます。その人が以前話していたことは、「仕事があって練習に参加できない」と言うことでした。
スペインでも仕事をしながら、サッカーをしている人はいます。しかし、近年日本で働き方改革が進む一方で、それが十分に行き届いていない場合があります。
つまり、仕事とサッカーを時間的な問題で両立することが難しいのです。
しかし、仮に仕事を自身が所属するクラブで得ることができる、あるいはサッカーに関連する仕事を得ることができる環境であれば、サッカーを続けることができる人が増えるかもしれません。
これは、国内の競技レベルを上げることにもつながるでしょう。なぜなら、経済的理由で優秀な選手がサッカーから離れることを防ぐことができるからです。
また、現在の日本は少子高齢化社会であり、出生率の減少も起こっています。
この1つの原因として挙げられることが、経済的問題です。
1人の子供を育てるだけでも、たくさんのお金がかかります。子供を持ちたいと思っていても、経済的に余裕のない中では子供に苦労をさせてしまうと考えている人も少なからずいるでしょう。
この経済的な問題、雇用の問題をサッカーによって解決する可能性もあると思います。
具体的な案に関しては、引き続き調べ、考えていく必要があります。
当サイトが提案すること
国内の競技レベルを向上させるために、今回当サイトからいくつかの提案をさせていただきます。
❶リーグ戦の活性化
育成年代・幼少期から大人までリーグ戦を行う。
例えば、スペインにおいては幼少期からリーグ戦があります。
マドリッド州の場合、次のように各年代のリーグ戦が開催されています。
年齢 | 試合形式 | 試合時間 | 詳細 |
5歳以下 | 5人制 | 15分×2 | 順位なし シーズン合計21節 |
6歳・7歳 | 7人制 | 20分×2 | 順位あり シーズン合計11節 (10月-2月) |
8歳・9歳 | 25分×2 | シーズン合計26節 | |
10歳・11歳 | 7人制 11人制 |
30分×2 30分×2 |
シーズン合計26節 シーズン合計30節 |
12歳・13歳 | 11人制 | 35分×2 | シーズン合計30節 |
14歳・15歳 | 40分×2 | シーズン合計30節 | |
16歳・17歳・18歳 | 45分×2 | シーズン合計34節 | |
19歳以上 | 45分×2 | シーズン合計34節 |
マドリッド州のこれらのリーグ戦は、全てマドリッドサッカー協会の管轄になります。
そのため、マドリッドサッカー協会のページから全てのリーグ戦の結果を確認することが可能です。また、各リーグの規定もマドリッドサッカー協会が決めているので、調べると約100ページにも渡るリーグに関するPDFが出てきます。
小さい頃から競技性を高めることが重要だと考えます。
このような意見もあるかと思います。
サッカーというスポーツをする以上、勝負にこだわることは大事です。ただし、それだけに目を向けていることが問題なのです。勝負にこだわり、一生懸命にプレーする中で選手がサッカー選手としてだけではなく、人として成長していくことが大事です。
日本にはトーナメント形式や短期開催される大会が多く、1年を通して行われるリーグ戦が多くありません。トーナメント形式の試合は、負けたら終わりな以上、嫌でも勝ち負けに重きをおいてしまいます。
一方で、リーグ戦は結果に左右されず、必ず試合をすることができます。だからといって結果にこだわらなければ、降格や下の順位でシーズンを終えることになってしまいます。
以上のことから、リーグ戦は競技性を高める目的に最も適した大会形式だと考えます。
また、リーグ戦を開催することによって、日本にサッカー文化を定着させることができます。
これについては、別記事で話しています。こちらの記事も読んでいただければ幸いです。
❷選手登録と移籍
1年を通してリーグ戦を開催するとともに、選手登録と移籍についてのルールも制定するべきだと考えます。具体的ことは次の3つです。
- チーム登録する場合は、必ずリーグ戦に所属する。
- 1チームに登録できる選手の数に上限をつける(最大でも30名まで)
➡︎登録していない選手は試合に出ることはできない。 - 移籍を認める(チーム・クラブと選手本人との合意のもと)
*1クラブではなく、1チーム。
例:〇〇クラブAチームで最大25名までの登録。〇〇クラブBチームで最大25名までの登録。ただし、各チームはリーグ戦に必ず所属すること。また、同じクラブ内から上に上げる選手の数に制限をつける。(例:最大5名)
➡︎これにより1つのクラブが、無意味に多くの選手を抱えることがなくなると想定する。
目的は2つです。
- 選手のレベルに応じたリーグへ各選手が所属することで、リーグ内の競技性を高める。
- 選手たちへプレーの機会を与える。
近年日本では、サッカークラブが増えてきているものの、未だに学校の部活動を中心にサッカーチームが構成されています。
そのため、多くの選手が大会への出場機会の有無とは関係なしに、3年間同じチームにいることが多いです。中には、在学中に一度も公式戦[サッカー協会が開催する大会]に出たことがない選手もいると思います。
スペインの場合、このようなことはありません。
なぜなら、選手たちはプレーの機会を求めてチームを選ぶからです。
もちろん、出場する選手であっても移籍することはあります。これは、より上のチームから声がかかり、そこでもプレーする機会を与えられる可能性があるときです。
現状の日本サッカーの仕組みは、チームのレベルに適していない選手が出ていくことや選手のステップ・アップを滞らせている状態だと言わざるを得ません。
スペインがこうしているから、どうこうではなく、サッカー選手はサッカーをプレーしているこそサッカー選手であり、サッカー選手はプレーする喜びを忘れてはいけません。
この意見に対して、賛否はあるとは思いますが、当サイトの見解をここで話します。
冒頭の日本代表の話の中でも少し触れましたが、「どのチーム・どのカテゴリーにいたのか」も確かに重要ですが、それ以上に「所属していたチームで何試合・何分出場したのか」ということの方が重要です。
そのため、「在籍していた」と言うことだけでは今後、経歴として機能していかないでしょう。
次に、「レベルの高い選手たちとトレーニングできる」ということですが、これはあまりにも自己中心的な考え方といえます。これは、今後1年を通してのリーグ戦開催が一般的になれば、多くのサッカー関係者が思うことでしょう。
説明します。
選手登録の人数を制限せずに選手を多く抱えた場合、指導者の指導が行き渡りません。指導者の指導とは、選手が練習しているのを見守ることではありません。それは、保護者のすることです。サッカー指導者は、サッカーを指導するからサッカー指導者なのです。
*参照:サッカー指導者を育てる
あるサッカー指導者の指導を受ければ、より成長できるはずの選手が、チームが多くの選手を抱えていることが原因で、指導者の指導が行き渡らず成長できないとなれば、それはもったいないことです。
選手を育てる・選手がサッカーをプレーすることを楽しむ・競技性を高める、これらの目的を達成するためには、選手登録・移籍について明確かつ具体的なルールをリーグ戦開催とともに進めるべきです。
❸指導者を育てる
リーグ戦が開催されることと、選手登録・移籍が行われることは、サッカー指導者を育てることにつながります。
一年を通して、チームを率いて戦うことは簡単なことではありません。
シーズン前の準備期間にどれだけチームを作ることができるのか、リーグ期間どのようなプランニングをし、どのように戦うのか、対戦相手の分析・トレーニング構築・ゲームプランニング・自チームの分析を毎週のように行う、短期間の大会を戦うことは異なります。
選手個人とチームのその両方を育てながら、リーグ戦を戦うことが求められます。
これには、監督をはじめとするチームスタッフの力が問われます。
そして、1チームに登録できる選手の数に限りがあれば、監督はより良い選手を選ぶよう努力します。もし、選手選考でミスがあれば、そのシーズンの成績に大きく響きます。
つまり、指導者の選手を見る目が養われる環境になります。
監督・指導者が選手を選ぶ一方で、選手にも監督・指導者を選ぶ権利が与えられます。
例えば、〇〇チームの監督と□□チームの監督が、選手Aにオファーを出したとします。両チームともに、同じリーグ・同じカテゴリーに所属しており、前のシーズンの結果も大きな違いがないとします。前者より後者の方が、選手育成に定評があり、そこからステップ・アップする選手が過去何人かいました。
選手Aは、より選手として成長したいと思い、後者を選びます。
つまり、指導者に魅力がなければ、いいチームを作ることはとても難しいです。
*ここで間違えてもらいたくないことは、まず初めにあることは「チーム・クラブ・監督が選手を求める」と言うことです。その次に、与えれられたオファーに対して、選手にチームを選ぶ権利が発生します。逆はありません。
最後に
今回は、海外に日本の選手を輩出するスタイルを続けるのかどうかという問題に対して、「続けない」「国内の競技レベル向上に目を向けるべき」と言う立場で話しました。
繰り返しますが、目を向けるべきことは国内にあると考えます。
ただし、その過程には海外の成功例を参考にしたり、海外のクラブ・指導者から学ぶこともたくさんあると思います。
例えば、自クラブの指導者を育てるために、海外の指導者を呼ぶなどです。
しかし、このときリーグ戦が確立されていなければ、海外の指導者を呼ぶことは難しいでしょう。なぜなら、彼らはチームを率いてリーグを戦うことが自分のやりたい仕事であり、そういった環境が当たり前の中で生きてきたからです。
ここで言いたいことは、今後国内のサッカーに関する環境・レベルを変えていく過程で、今回提示した3つのことは必要になってくる可能性が高いと言うことです。