サッカー

サッカーにおけるプレー強度

デュエルとプレー強度

ハリルホジッチが日本代表監督を務めていた頃に、日本で使われるようになったサッカー言語があります。

「デュエル」「球際の強さ」

これらの言葉は、サッカーにおけるプレー強度を示す一つのプレーと言えます。

デュエルとは、ラテン語で2人を意味する「DUO(デュオ)」が語源だそうです。このことから、サッカーにおいては「1対1の場面」を表現しています。

最近では、日本代表の遠藤航選手のブンデスリーガ(ドイツ)における“デュエル勝率”が、サッカーのニュースでも注目されることがあります。

ただし、今回話をすることは「デュエル」についてではなく、「プレー強度」についてです。つまり、1対1だけではなく、サッカーというスポーツにおけるプレーの強度について考えていきます。

プレー強度とは

サッカーにおけるプレー強度を説明する時、まずはこの言葉を定義するところから始めましょう。

今回は、スペインにあるサッカー指導者学校ACADEF(アカデフ)が出しているプレー強度に関する記事を参考にさせていただきます。

一般的にサッカーにおけるプレー強度とは、一定の力・集中力・正しい姿勢で、一定の時間内にある特定のアクションを実行すること、と定義することができます。

*En líneas generales, la intensidad en el fútbol puede definirse como la realización de una acción determinada durante un periodo de tiempo determinado y de forma correcta, con una fuerza determinada, una concentración y una actitud correcta.

https://www.acadef.es/la-intensidad-en-el-futbol/
こちらのURLから元記事を見ることができます。サイトは日本語翻訳対応ですので、もし興味があれば目を通してみてください。

ここで言う“姿勢”と言うのは、体の形(フォーム)ではなく、心構えや態度のことを示します。
以上のことから、サッカーにおけるプレー強度には身体的能力(フィジカル)だけでなく、メンタルの要素も含まれています。

ここで簡単に身体的能力(フィジカル)を構築する基本的な要素をまとめておきます。

  • 運動能力(基本的な動作)
  • 可動性
  • バランス
  • 敏捷性
  • 力(パワー)
  • 持久力
  • スピード
  • 瞬発力
  • サッカーにおける特別な能力(*技術的なもの)

これらに加えて、集中力と言った精神的要素が含まれるものが「プレー強度」と言えます。

話が冒頭に戻りますが、サッカーにおいてプレー強度の話をするときに、ボールのあるところ、1対1の球際やデュエルにだけ焦点を当てるだけでは不十分です。
なぜなら、ここでまとめたようにプレー強度には身体的要素と精神的要素があり、また身体的要素にははボールのないところでのアクションに含まれるものが非常に多いからです。

あるデータでは、1人の選手が1試合90分にボールを触る平均時間は2分〜3分と言われています。
「プレー強度=球際•デュエル」とは考えないようにしましょう。

練習で選手たちに強度を求める

だいぶ前置きが長くなりましたが、ここから本題に入っていきます。
この記事で伝えたいことは、「練習で選手たちに強度を求めること」、「どのようにプレー強度を高めるのか」、そして「その時に必要なこと」の3つです。

ここではまず、「練習で選手たちに強度を求めること」について話します。

試合で選手たちに強度を求めるためには、日頃のトレーニングから強度を求めていく必要があります。これらがまず練習で選手たちに強度を求めることの理由です。

もし仮に、日頃のトレーニングから選手に強度を求めていないと次のようなことが起こる可能性が高まります。

  • 怪我
  • 試合途中からのパフォーマンス低下

ただし、これらは日頃からプレー強度の向上を図っていたとしても、起こるときは起こってしまうものです。だからこそ、これらが起こる可能性を下げるためにも日頃のトレーニングが大事になります。

どのようにプレー強度を高めるのか

では、どのようにプレー強度を高めるのか、次はここに触れていきます。

日本の場合、プレー強度を高めると言ったら、筋トレや走り込みなどのフィジカルトレーニングと1対1などの体のぶつかりが頻繁に起こるトレーニングをイメージする人が多いと思います。

しかし先ほども話したとように、プレー強度には、ボールのないところでのさまざまな身体的要素と精神的要素があります。つまり、サッカーから完全に切り離されたようなフィジカルトレーニングやボール付近での体のぶつけ合いだけではないのです。

プレー強度を高める上で、ここで2種類のトレーニングを紹介します。

  1. フィジカルトレーニング
  2. 技術•戦術トレーニング

 

それぞれを簡単に説明してしていきます。

まずは、フィジカルトレーニングです。
選手のフィジカルコンディションを向上させることが目的のトレーニングをフィジカルトレーニングとここでは呼びます。このトレーニングは、基本的に専門的な指導者が主導で行われます。
ちなみにスペインの場合、フィジカルコーチとして協会に登録したい人は、Ciencias de la Actividad Física y del Deporte (CAFD)と言う学問を大学4年間で学ぶ必要があります。*以前の名称はINEF(イネフ)。

このトレーニングはさらに3つの種類に分けることができます。

  • 身体的トレーニング
  • 技術的トレーニング
  • 戦術的トレーニング

身体的トレーニングとは、基本的にサッカーボールを使わずに行うフィジカルトレーニングのことをここでは言います。重りなどの道具を使わずに行う体幹トレーニングや重りやチューブなどの道具を使うトレーニングもここに含まれます。

技術的なトレーニングとは、サッカーボールを使うフィジカルトレーニングの中でも、対人のないトレーニングを言います。いくつかのグループに分けて行うサーキット形式のものが多いです。

戦術的トレーニングとは、基本的に対人•サッカーボールのあるフィジカルトレーニングになります。

フィジカルトレーニングにおける技術的トレーニングと戦術的トレーニングでは、フィジカルコンディションを向上させることが主な目的となります。そこに、サッカーの技術的要素もしくは戦術的要素を付け加えたものがこれらのトレーニングに当たります。

 

次に、について説明します。
技術•戦術トレーニングの目的は、その名の通り、サッカーの技術やサッカーの戦術レベルの向上が目的のトレーニングをここでは言います。

このトレーニングもいくつかの種類に分けることができます。

  • 機械的トレーニング
  • 戦術的トレーニング
  • 変則的試合

機械的なトレーニンングの代表例が日本サッカー協会でも行われる四角形のパス&コントールのシンプルなトレーニングです。相手のいない状況で行うトレーニングのことを言います。

戦術的なトレーニングとは、ボール保持(ボールポゼッション)やそこから派生したものを示します。例えば、ボール保持でパスを10本回してからゴールへ向かうなど、ボール保持だけで終わらないトレーニングも含まれます。

変則的な試合とは、ダブルボックスなどのサッカーのフィールドを変形させた中でのトレーニングや、試合の中に特別な制限やルールなどを用いたものになります。

ここまで、いくつかのトレーニングの種類を分類して説明しました。
この分類は、1週間のトレーニングを振り返るときに用いると良いかもしれません。もし仮に1種類のトレーニングだけ多く行っている場合、それはトレーニングのバランスが取れていないと言えます。

では、話を「プレー強度の向上」の戻します。
プレー強度の向上のためには、ここで紹介したすべてのトレーニングで求める必要があります。フィジカルトレーニングをすれば、プレー強度が向上するわけではありません。それをサッカーに落とし込まなければなりません。実際のサッカーのプレーの中で、一定の力・集中力・正しい姿勢で、一定の時間内にある特定のアクションを実行することを目指すことが重要です。

強度を求める上で必要なこと

どんなトレーニングであれ、プレー強度を求めることの重要性は理解していただいたかと思います。

次に、トレーニングでプレー強度を求める時に必要なことについて話していきます。

フィジカルトレーニングでは、フィジカルコンディションを高めることが目的なので、トレーニング内容を説明してしまえば、自然と体に負荷がかかります。もちろん、体のどこを鍛えているのかと言うことを意識できれば、より良い成果が期待されるでしょう。

ここで話すことは、主に技術•戦術トレーニングと言うサッカーの技術やサッカーの戦術レベルの向上が目的のトレーニングを行うときのポイントです。
パス&コントールやボール保持では、トレーニングのやり方を理解しただけでは、プレー強度を高めることにはつながりません。

例1)12mほどの四角形のシンプルなパス&コントール
パスとコントール、この2つのアクションだけでは、プレー強度にはつながりません。しかし、このアクションの前後に動きを入れることで、それは変わります。ボールを受ける前に素早く2•3歩コーンから離れる動き、パスを出した後に次に並ぶコーンまでスプリント、これらは実際のサッカーの試合でも必要な動きです。

例2)4対4+2フリーマンのボール保持
基本的にボール保持のトレーニングは、攻撃[ボールを持っている時]に指導が集中しがちですが、それだけでは不十分です。説明します。
仮に、ボールを持っていない側がボールを奪いに行く時にスプリントをしていなければ、それは攻撃の質を高めることにはつながりにくいです。守備をテーマにしているときだけでなく、攻撃をテーマにしている時にも守備側にアプローチをしましょう。
このようにすることで、おのずとプレー強度が高まります。
*もし攻撃をテーマにしているのにも関わらず、守備側の強度が高く、攻撃側が多くボールを失っているとしたら、その時には守備側の強度を落とすのではなく、攻撃側のフリーズコーチングもしくはトレーニング内容を改善することを考えましょう。

技術•戦術トレーニングを行う時にプレー強度を求めるために選手にアプローチすることへの必要性は理解していただけたと思います。
では、その時に必要なこととは何でしょうか?

 

 

 

 

 

簡単にまとめます。

  • 1つのトレーニングをいくつかのセットに分ける。
  • 時間を伝える。

この2点です。

1つのトレーニングをいくつかのセットに分けるとはどう言うことなのか?
例えば、15分間ボール保持のトレーニングをするとしましょう。この時、15分続けてボール保持を行うことは、プレー強度を高めることにはつながりにくいです。なぜなら、15分間で一定のスペースで、ボールを奪いにいくためにスプリントを繰り返すことは難しいですし、実際の試合でもありません。

なので、いくつかのセットに分けましょう。
どのようなボール保持のトレーニングをするかにも寄りますが、どれだけ長くなったとしても、1セット5分でしょう。基本的には、2分〜3分くらいが一般的ではあります。
今回の場合、15分間なので、4セットほどに分けます。15分には、トレーニングを説明する時間、セット間の休憩時間、フリーマンを変える時間、フリーズコーチングをする時間なども含まれます。
練習するグラウンドについてメニューを考えるのではなく、事前にその日のトレーニングをある程度プランニングしておく必要があります。

次に、時間を伝えるとはどう言うことなのか?
プレー強度には、さまざまな身体的要素にに加え、精神的要素を伴うという話をしました。そこで質問です。

みなさんは、終わりの見えない仕事に集中することはできますか?
途中で「あとどのくらい時間が残っているんだ?」と時間を気にしてしまいませんか?

つまり、時間を伝えるとは、選手たちにプレー強度を求める時間を伝えることです。

「このトレーニングはいくつかのセットに分けて行うけど、1セットは2分ほどだから、この時間は全力でボールを奪いにいくし、ボールを奪われたら全力でボールを奪回にしにいくんだぞ!」

「残り30秒、もっとボールを奪いにいくんだ!」

選手たちに、このような声をかけることが必要です。
ここに挙げた2つはあくまでも例です。それぞれの指導者が考える言葉で、選手たちにプレー強度を求める時間を伝えましょう。

これらのことを意識しつつ、技術•戦術について指導をするよう心がけましょう。
もし指導者が2人以上いる場合は、役割を分担してみましょう。
例えば、第一監督はテーマである攻撃の指導•声がけ、もう1人は守備側に対しての声がけ、さらに指導者がいれば時間を管理する人、ボールを拾いにいく人などとスタッフ間で役割を明確化しておくとより良いです。

最後に

今回、いくつかのトレーニングの種類のついて紹介しましたが、これはスタッフ間でトレーニングメニューについて話すときに活用することができます。

例)「今日のトレーニングでは、最初に〇〇主導でフィジカルトレーニングをして、その後、機械的トレーニングで攻撃の形を確認。その後、ボールポゼッションのトレーニングをバリエーションを含めて行い、最後にゲームで終わるのが今日の流れ。」

また、今回はしつこくトレーニングの中でプレー強度を求めることについて話しましたが、ここで1つの疑問が生まれると思います。

プレー強度を求める日は、週のトレーニングすべて求めるのか?試合翌日や前日のトレーニングでも同様なのか?

先に答えを言います。

異なります。

別の記事で週のトレーニング回数と、プランニングの例について話します。

ただし、今回忘れないでもらいたいことは2つです。今回のまとめになります。

まとめ

●プレー強度=デュエルではない。
プレー強度とは、さまざまな身体的要素に加え、精神的要素の含むもの。

●そして、プレー強度をトレーニングで高める必要がある。ボールを使わないフィジカルトレーニングだけではなく、技術•戦術トレーニングも含めプレー強度を高める機会にする必要がある。

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