サッカー

指導者としてのコミュニケーション

ある講習会での話

先日、私はスペインのマドリッド州サッカー協会のある講習会に参加してきました。
今回は、そこでの話をここで共有したいと思います。

講習会のテーマは、「基本的な道具としてのコニュニケーションのテクニック」でした。
まずは、この講習会の冒頭にあった話をしていきます。

今回はいくつかのある講習会の初回ということで、協会の指導者育成部門の代表者が挨拶してくれました。その中で、6歳の少年と若い指導者の話をしてくれました。

ある日の練習前、6歳の少年はグラウンドで練習が始まるのを待っていました。そこに、若い指導者が練習で使うための長い棒を持って現れました。
それを見て、少年は指導者に質問しました。

「それは何に使うの?」

すると、指導者は次のように答えました。

「これは君たちをぶつためだよ」

この日以降、この少年は練習には来なくなりました。
指導者は、その少年の父親と話したところ、次のようなことを言いました。

「息子はサッカーをするのが、好きじゃないみたいなんだ。サッカーをしている時に幸せじゃないんだ。」

原因は、若い指導者の何気ない一言でした。
彼が発した一言は、ほとんどの人が“冗談”と受け止めることができます。
しかし、6歳の子供に対して、その冗談が通じるのかどうかは、考える必要があります。
今回の少年の場合、通じませんした。そして、彼はサッカーが嫌いになったのです。

この話から、協会の代表者は次のように、今回の講習会の意義を話しました。

「今回の講習で、選手や指導者、保護者、クラブ関係者、さまざまな人とのコミュニケーションの形を学んでもらいたい。我々、指導者としては、選手たちにサッカーを楽しんでもらい。しかし、指導者と選手の間のコミュニケーションがうまくいかなければ、今話したようなことが起こりうる。」

コミュニケーションの重要性はみなさんにも理解していただけたかと思います。
ここで話した話は、年齢に応じた言葉選びができていたかという事が1つの問題ですが、コミュニケーションにはさまざまな要素があります。
今回は、そのさまざまな要素について簡単にまとめていきます。

2種類のコミュニケーション

コミュニケーションには、大きく分けて2種類あります。

言語コミュニケーション

言語コミュニケーションとは、話の内容や言葉によって情報を相手に伝えることを言います。

●言葉選び

冒頭にも話したように、適切な言葉をもちろんのこと、文と文の間に出るふとした言葉にも注意しなければいけません。
例えば、「えー…」「わかった?」「オーケー?」など、無意識に頻繁に使ってしまう言葉です。これが増えてくると、相手に不快感や不信感を与えてしまうことがあります。
些細なことかもしれませんが、もし仮に身に覚えがあるのであれば、今の状況をより良くできるかもしれません。

また当たり前のことですが、話す内容も大事です。
コミュニケーションは相手に伝える事ができて初めて意味があります。
話す内容が事実と違ったり、相手を納得させる事ができなかったり、その場に適した話をすることができなければ、良いコミュニケーションにはつながりません。

いつ、どこで、誰に、何を、何のために、伝えるのか、これを整理しておく必要があります。
最後に講習会で行った実際のワークアウトの例がありますので、1つの練習の機会にしてみてください。

●声のトーン

言語には、言葉や話の内容といった文字だけではなく、トーンや抑揚があります。

講習会の中で出た1つの例があります。
それは、トレーニングの内容説明を始める時、ロッカールームでの話を始める時に、大きな声ではっきりと言葉を発する事です。
例えば、「いいかい?」「よし!始めるぞ!」などといった言葉を大きな声で発する事で、選手たちの注意力を自分に向けさせます。

とにかく、話の中で同じトーンでずっと話すことを避けましょう。
強調したいことを大きな声で言う、聞き手に考える時間を与えるために一瞬静かにする、間を取る、伝えたいことを明確にするためにそれ以外のところは少し低いトーンで話す、などなど、きっと人それぞれにさまざまな方法があると思います。
目的は相手に情報を伝えることです。そして、その情報を相手の頭に留めるように努めることです。これらのことに注意しながら、経験を重ねることでより良いコミュニケーションを取る事が可能になります。

非言語コミュニケーション

一方で、非言語コミュニケーションとは、話の内容や言葉ではなく、それ以外の要素にで相手に情報を伝えることを言います。

●印象

印象とは、初対面の相手に対しての第一印象だけではありません。毎日会うような人でも、日によって印象は変わるものです。

その大きな要因の一つが、あいさつです。
スペインの場合、挨拶で握手をしたり、抱擁を交わしたり、異性であれば頬にキスをすることもあります。そのため、あいさつの中にも様々な印象を与える要素があります。
一方で、日本の場合、こういったアクションは一般的ではありません。スペインなどの海外に比べると印象を与える要素はそんなに多くないかもしれません。しかし、あいさつをすることと、しないことでは相手に与える印象は異なります。

また、見た目も大切です。節度のある格好が大事だと思います。
校則などで決められていることを守るか守らないではなく、節度があるかどうかです。例えば、上下スウェットで、まるで寝巻きのような格好で、寝癖も直さずに仕事場に行くことを想像してみてください。その日に会う人が持つ印象は、あまり良くないものだと容易に想像できます。
日本では、髪型や服装を時と場合(TPO)に応じて、厳しく考える人もいますが、あまりにも厳しく限定しすぎることを私は個人的には好みません。ただし、相手に与える印象に不安があるのであれば、できる限りその不安要素を取り除く事が必要です。

●身振り

手の使い方、体の使い方に注意が必要です。

例えば、体重を片方の足にかけたり、それを頻繁に左右入れ替えたり、手をいじったりする事です。
講習会で勧めていた姿勢は、“ニュートラルな姿勢”というものでした。
体重を両足に均等にかけた状態で、手は体の横あたりにある状態です。その状態から、動きを加えることが、より良いコミュニケーションにつながるという事でした。

話している最中ずっとこの姿勢を保ったほうがいいと言うわけではありません。なぜなら、身振りをする事自体が悪いことではないからです。
ニュートラルな姿勢を取ることは、相手に落ち着きを与えます。しかし、そこから何の動きもなければ、機械的な人という印象を与えかねません。

自分が話すときにどんな姿勢を取ったり、どんな身振りをしているのかを少し気にかけてみると良いでしょう。

●表情•態度

身振りとも重なりますが、話すときに腕を前や後ろで組んでいたり、ポケットに手を突っ込みながら話すことも、相手に印象という情報を伝える意味でコミュニケーションの一環と言えます。

笑顔で話しかけたり、眉間に皺を寄せながら話したり、目を見開いて話したり、それぞれ異なる情報を与えます。

細かいことかもしれませんが、これらはコミュニケーションの道具となります。
この道具を使いこなすことで、コミュニケーションがより上手く取れるようになります。

“聞く”を知る

“聞く”を知ると聞いて「そんなこと誰でも知ってるわ!」と言いたくなるでしょう。
しかし、これが意外と実践することが難しいのです。

誰しも、経験があると思います。
相手が話している途中に「いや、でもさ…」「いや、…」と相手の話を遮って、自分の意見を言ってしますうことは、人生の中で何回もあると思います。
また、子供や年の低い人に対して「わかった、わかった」と言って、相手の話を途中で切ったりしたことはありませんか?

相手の話を聞くことに努めましょう。

子供に対してよく起こる事ですが、人が話しているときに、子供が違う話をし始めたりすることには静かにするように言わなくてはいけません。なぜなら、それは子供側に“聞く”姿勢がないからです。ただし、子供が話す番になった時に、それを聞き手の都合で遮ることは避けましょう。

間違えてもらいたくないことは、相槌と会話を遮ることの違いです。

相手が話している時に、「あー、〇〇?それでどうなったの?」などと、相手の話を確認するような相槌は問題ありません。しかし、これが「あー、〇〇?実は、私最近〇〇とどこどこであって、…って話をして、それでね…」と自分の話をし始めてしまえば、それは相手の話を遮っていることになります。
相槌は、相手の話を聞いていることを示す道具でもあります。この違いは、是非頭に入れ置いてもらいたいです。

最後のワークアウト

講習会の最後に、いくつかのグループに分かれてワークアウトを行いました。
講師が準備したテーマについて、各グループの代表者が全員の前で実践しました。時間の都合上、6つのテーマの内3つのテーマで今回は終わりました。

●自己紹介
*あなたは新しい監督です。選手たちとの初顔合わせの際の話を考えてくだい。

-実践後のフィードバック

フォーメーションやチームの戦い方と言った戦術的なことではなく、こう言った場面ではチームとしての取り組み方について話すべき。

例)
⭕️「今日から君たちの監督を務める〇〇です。私のチームに求めることは、2つです。試合に限らず、練習でも100%の力をそれぞれが出すこと、もう1つはサッカーを楽しむことです。」

✖️「今日から君たちの監督を務める〇〇です。私のチームでは常に1−4−4−2のフォーメーションで戦います。より攻撃的なチームを目指すので、シュートをたくさん打つことを求めます。」

 

●負けている状況でのハーフタイムの話
*公式戦リーグ戦でのハームタイムでの選手たちの前でする話を考えてください。チームは負けている状況です。

-実践後のフィードバック

話す内容がまとまっていなので、考えながら話しているため目が泳いでいた。
あらかじめ、ロッカールームで選手たちが待機している数分の間に、その外で話す内容を箇条書きでも良いからまとめておくべき。

 

●クラブ代表者との1対1の懇談
*クラブ代表者との1対1の懇談で話す内容を考えてください。あなたは、引き続き同じクラブで働くことを希望しています。その旨を伝えることが今回の目的です。考慮する点として、クラブ代表者は知識をひけらかすタイプの人です。講習会の中で、こういった人に対しては、データなどをもとに話を考えておくことを推奨しています。

-実践後のフィードバック

一方的に、自分の意見を同じトーンでずっと話していた。もっと会話をするべきだった。
例えば、「私は来シーズンもここに残りたいと考えています。来シーズンは今シーズンより良い成果を出すように努めようと考えています。あなたは、今シーズンの私のスタッフチームの働きをどのように評価していますか?」と相手の意見を聞く問いかけがあってもよかったのではないか。

 

最後に

繰り返しますが、コミュニケーションとは相手に通じて初めて意味が成り立ちます。

つまり、相手に自分の伝えたい情報が伝わっていない時、相手が自分に伝えたいことをこちら側が理解できていない時、コミュニケーションは成り立っていません。

相手に自分の伝い情報を伝えるためには、今回話したさまざまなコミュニケーションの手段•道具をうまく使うことが必要です。

講師は、講習会の最後にあることを提案してくれました。

それは、自分が話をしている姿を録画することです。

練習前の話、練習の説明、練習後の話、試合前の話、まずはシチュエーションを想定して自分で話を考えます。その上で、携帯で自分が話す様子を録画します。
より理想的なことは、家族や友達に録画してもらうことです。人を目の前にして話すことは、より実践の状況に似たものになります。

録画まではしませんが、私もこういったことを頻繁に行います。
例えば、練習メニューを考えた後に、どのように説明するのかを頭で想像します。頭で想像しながら、ぶつぶつと声に出します。この時、手の動きなども入れます。
そして、練習に向かう道の中で改めてイメージします。
しかし、このような準備をしたからといって、必ずしもうまくいくわけではありません。自分が思っていた以上に選手たちにとってはトレーニングの内容が難しかったり、前後の練習の予定時間が変わったり、色々な事が影響します。
それでも、私は何も準備しないことよりも、自分にできる準備をしっかりしておくことが大事だと考えます。

一方で、コミュニケーションは自分が情報を発するだけでは不十分です。
相手が自分に伝えたいことをこちらが受け取ることも大事です。そのためには、双方の理解しようとする姿勢が必要です。

この時に大事なことが、相手の話を遮らずに聞くことです。
コミュニケーションは、話し手と聞き手の双方の努力が必要です。
「あの人は……だから、話にならない」と思うこともあります。
しかし、まずは私たちからより良いコミュニケーションを取れるように努めていきましょう。今回の記事がその参考になれば嬉しいです。