サッカー

試合中のベンチもしくは観客席からの試合分析

はじめに

今回は、サッカーの試合中におけるベンチもしくは、観客席からの試合分析について話していきます。

本題に入る前に、私のチームにおける試合中の役割について話します。

私は現在(2022-2023)において、スペインのユース年代であるフベニールというカテゴリーのAチームとBチームで、サッカー指導者をしています。

フベニールAでは、分析官[アナリスタ]を務め、フベニールBでは第二監督を務めています。当たり前ですが、どちらのチームでも試合分析を行います。

フベニールA[ユーストップ]の場合、観客席からビデオカメラで試合を撮影します。
そのため、試合を撮影しながら、試合を分析する必要があります。また、このチームの場合、試合中に第二監督と電話を繋ぎながら、ビデオ撮影をしています。
つまり、ビデオ撮影+試合分析+第二監督との通話の3つを同時に行うこととなります。
これは今シーズンからのスタッフ間での取り組みですが、第二監督としては手応えを感じているのか、現在まで継続して行なっています。

一方フベニールBの場合、第二監督なので観客席からのビデオ撮影ではなく、ベンチから試合を分析することになります。
ビデオ撮影に比べて同時に行う作業は少ないですが、第一監督と試合中に話すことがより頻繁にあります。また、交代の手続きや交代によるセットプレーの役割変更の伝達などいくつかの役割があります。同時作業は減りますが、やることの数としては分析官に比べて多いです。

そして、これらの2つには違いがあります。
「観客席から見ること」と「ベンチから見ること」の違いは、俯瞰で見るか、平面で見るかの違いです。俯瞰の方がより現象が見やすいということで、フベニールAでは第二監督と通話をしています。

しかし、基本的に分析の仕方に変わりはありません。
今回の話は多くのサッカー指導者の参考になるのではないかと考えています。

ではここから、私の経験をもとに、私が実際にどのように試合中に分析をしているのかについて説明していきます。

試合中の分析

まず最初に大まかな流れを確認していきます。

  1. フォーメーションの確認
  2. 相手の動きとそれによる現象の確認
  3. 解決策の準備

次に、これら3つについてそれぞれ説明していきます。

①フォーメーションの確認

まず試合が始まるときに、相手のフォーメーションをざっくり確認します。

自チームのキックオフで始まる場合、それをより簡単に知ることができます。
一方で、相手チームのキックオフで始まる場合、最初の5分ほどは相手の動きを見る必要があります。なぜなら、キックオフではボールを前線に大きく蹴るチームが多く、そのためにフォーメーションを本来の形から少し変えることがあるからです。
例えば、下図の例を見てください。

赤が相手チーム、自チームは青です。この時、自チームも相手チームに応じて選手の配置を多少変えることはありますが、自チームに関しては当たり前ですがフォーメーションを把握しているので問題ありません。

おすすめは相手の守備時のフォーメーションを見ることです。
守備時には基本的にブロックを形成するため、選手の配置が明確化されやすいからです。一方、攻撃時には守備に比べて多くのポジションチェンジが起きやすいため、相手のフォーメーションを確認することが難しいです。攻撃時に唯一選手の配置が明確化される時は、ゴールキックからのプレーの再開です。

これらの特徴を加味しながら、試合の最初に、相手の基本となるフォーメーションを確認するようにしましょう。基本となるフォーメーションとは、誰かに「このチームはどのようなフォーメーションを取っているんだい?」と聞かれた時に、一言で答えるものです。

②相手の動きとそれによる現象の確認

相手チームの基本フォーメーションを確認した後に見ることは、その基本の形からどのように相手が形を変えているのかということです。

例えば、相手のフォーメーションが1-4-4-2とします。
よくあることは、攻撃時に両センターバック(以下CB)が大きく横に開き、両サイドバック(SB)が高い位置を取り、両サイドハーフ(SH)の選手が中央に入ることです。ここから派生して、大きく開いている両CBの間に中盤の選手(MC)が落ちてきたり[①]、高い位置をとるSBとCBの間にMCやSHがサイドに広がってボールを受けたりします[②]。
図で確認してみましょう。

次に、これらの動きによってどのような現象が起こるのかをみていきます。

例として、自チームが1-4-3-3で守備をしているとしましょう。その上で、現象について考えていきます。

先ほどの相手チームの動きでどのような現象が起こるのか?
一番はっきりとした現象としては、選手の数的関係性です。図で例を見てみましょう。

赤色の丸で示している場所(フィールド中央)に注目していください。
相手チーム1-4-4-2と自チーム1-4-3-3の場合、本来は、相手SHの選手を除いて2対3の数的不利な状況です。しかし、選手の動きによって、フィールド中央に相手は4人の選手を配置しています。この時、選手の数的関係性が2対3の数的不利な状況から4対3の数的優位な状況に変わります。

もう少し考えてみましょう。
自チームが、中央で数的不利な状況になった時、選手たちはどのような疑問を持つでしょうか?

相手のCB2人が大きく開いているから自分だけじゃ相手にプレッシャーかけれない。(センターフォワード:以下CF)
高い位置を取る相手のSBは俺が見るの?それともSBが見るの?(ウイング: 以下WG)
監督、どれだけ自分たちがボールを奪いに行っても相手にパスでプレッシャーをかわされる。必ず、相手の1人の選手がフリーになるけど、それでも奪いにいき続けるの?どうするの?(中盤の選手: 以下MC)

これに対して、「自分たちで考えろ!」というのは、私からすれば選手の自主性に任せるではなく、指導者の仕事の放棄と言えます。
なぜなら、選手各々が自分たちの考えで動いてしまえば、バラバラのプレーになり、連動性がなくなり相手にさまざまな優位を与えてしまう可能性があるからです。
だから、指導者•監督が、選手たちにチームとしてどのようにプレーするのか、またそれはなぜなのかを正確に伝えることが必要になります。
そのためには、分析が必要です。
選手から疑問を投げかけられても、状況を理解できていなかったり解決策に理由がなければ、選手は納得して自信を持ってプレーすることが難しくなります。

ここでは、相手の攻撃の局面における一部について話しましたが、同様の分析を守備の局面においてもしなくてはいけません。
攻撃と守備の局面の分析ができれば、攻守の切り替えについても大まかに状況を把握することが可能になります。*切り替えの場面は、攻撃と守備が密接に関わっているから。

③解決策の準備

フィールド上で起こっていることが理解できたら、今度はそれを改善する策を考える段階に入ります。

先ほどの話をもとに、問題点を簡単にまとめてみましょう。

  1. 相手CBに対してプレッシャーをかけれない。2対1の状況。
  2. フィールド中央で相手が数的優位な状況。
  3. 高い位置を取る相手SBのマークを誰がするのか。

これに対しての解決策を考えます。

ここで解決策の例を出します。これが必ず正解というわけではありません。
重要なことは、チームとしてやることを選手たちが理解し、それを行う理由に選手たちが納得できるかどうかです。

例)

*左図がフォーメーションの噛み合わせ、右図が相手の動きに対する守備のアイディア。

まず相手CBに対してプレッシャーをかけることを目指します。最初のプレッシャーのアクションは必ずCFの選手です。相手CBからの横パスもしくは相手CBドリブルで前進してきた時に、CFの選手は相手MC(アンカー)へのパスコースを切るように斜めにプレッシャーをかけます。この時、ボールサイドとは逆のWGの選手はもう1人の相手CBと相手のアンカーの間の位置にポジションを取ります。この目的は、反対の相手CBやアンカーにパスが出た時にプレッシャーをかけるためです。

これを行う理由は2つです。
1つは、CBが大きく開いているので、CF1人だけでは2CBへプレッシャーをかけることはできません。なので、サイドでプレーするWGの選手が反対の相手CBへプレッシャーをかけたいからです。もう1つは、中盤で数的不利な状況なので、中盤の選手が反対の相手CBへプレッシャーをかけることはできないからです。

次に中盤のラインでは、ボールサイドのWGと3MCの4人で1つのラインを形成します。
この4人は中央にポジションを取る相手選手へのパスコースを消しながら、ゾーンで守備をこないます。中盤では、ラインの背後とボールから一番遠いMCの横で2人の相手選手をフリーにします。ただし、前線で相手のプレーを限定している状況なので、ボールサイドをコンパクトにし、相手にサイドを変えられることを防ぎます。

人についていけば、自分たちの背後により大きなスペースを相手に与えるので、ゾーンで守り前進を阻止します。また、人に付いていこうとするれば、数的不利な状況なので必ずフリーの選手が生まれます。フリーの選手がどこに生まれるかわからない状況を作るのではなく、自分たちで一定の場所にフリーの選手を置きます。

高い位置を取る相手SBに対しては、WGの方が近い場合は斜めに後退してその選手へプレッシャーをかけ、もしSBの方が近い場合はSBの選手が相手SBへプレッシャーをかけます。SBがプレッシャーをかけに行く時、DFラインの残りの選手はスライドします。特に、ボールを奪いに行ったSBの背後に走る相手FWに対してはCBがついていくことを伝えます。

挟み込みはしないようにします。なぜなら、1人の相手選手に対して2人の選手がボールを奪いにいけば、その分異なる場所により大きなスペース空けることになります。SBがボールを奪いにいく時、WGの選手は相手のアンカーの選手へのパスコースを切りましょう。
*ボールがサイドに出た時、相手のアンカーの選手•CBの選手はボールによりサポートをしに来ます。このうち、より自陣ゴールに近い位置を取る選手へのパスコースを優先して防ぎます。

最終的にボールをサイドで奪うことを目指します。
ボールを奪った後は、必ずそのサイドからボールを出すことをを目指しましょう。なぜなら、相手CBは大きく開いており、ボールを奪ったサイドの正面には必ず相手CBがいるからです。カウンターをするにしても、ボール保持をするにしても、ボールを奪ったサイドから出しましょう。

あくまでも例です。
皆さんもぜひ考えてみてください。

ここまでの①〜③の工程ができて、試合分析となります。

*事前に相手チームの分析ができている場合
その試合での相手のフォーメーションが分析していた通りなのか、そうでないかをまず確認します。
もし想定していた通りであれば、自分たちが取り組んできたトレーニングの内容が機能しているのかどうかを見ます。もし機能していなければ、なぜ機能していないのかを分析します。
一方で、もし想定していたものと異なる場合は、①〜③の分析の過程を行います。

作業と時間の関係

ここでは、ここまで説明してきた分析作業と試合時間との関係性について話します。
※45分×2、ハームタイム15分の試合を前提にします。

A -試合開始から15分の間で分析をする

試合分析の①〜③の過程を、試合開始から15分を目安に全て行います。
これは早ければ早い方がいいですが、考えがはっきりしない場合は落ち着いてもう一度試合に目を向けてみましょう。

試合分析の①〜③の過程を終えた上で、もし試合中に修正可能なことがあれば、ベンチから口頭で手短に選手に伝えましょう。しかし、修正を加えようとすることで選手が混乱するようであれば、手元にあるメモ帳やノートに箇条書きで記しておきましょう。

B -前半残り5分を目安にハーフタイムで話す内容をまとめる

前半が残り数分で終わるとなった時には、ハーフタイム中に選手たちに伝えること•後半のプランニついて整理しておきましょう。(例: 選手交代についてなど)

これも箇条書きで手元にあるメモ帳やノートにまとめておきましょう。

C -ハーフタイムの最初の数分で話す内容を確認

ハーフタイムの最初の数分は、選手たちをロッカールームへ送り、数分間選手に時間を与えましょう。この時間で選手たちは、水分補給をしたり、味方と試合についての意見交換を行います。この一方で、監督を含めたスタッフチームは、ロッカールームの外でメモ帳やノートにまとめておいたことについて改めて整理します。

ハームタイムという短い時間で伝えられることには限りがあります。
誰が、何を、どのように選手に伝えるかをスタッフ間で素早く話し合います。
目安として、この時間は最大5分です。

これ以上スタッフ間での話し合いに時間を割けば、選手たちに伝えたいことを伝える時間がなくなります。

また伝える内容は大きく分けて3つほどが理想的でしょう。
諸説ありますが、脳が一度に処理できる情報量3つ〜4つと言われています。どのように分けるかは、各指導者によりますが、自分の中で分類し伝える内容を明確にしましょう。

D -後半相手が何かを変えてきたかの確認

後半が始まれば、あとは試合開始時と同様に、試合分析の①〜③の工程を行います。

これに加えて、2つのことを後半では見ていきます。

1つは、相手の選手交代です。
ハームタイムでの選手交代があるかどうかをまず見ます。もし相手チームの選手交代があった場合は、それによる変化に注目する必要があります。
2つ目は、ハームタイム中に話したことが機能しているかどうかです。
選手たちに伝えたことが、本当に選手たちに伝わっているのか、これを見ていく必要があります。

 

最後に

ビデオ分析と試合中分析の違いについて話をします。

試合中分析では、ビデオ分析とは異なり、巻き戻しができません。
そのため、試合から目を離すことをできるだけ割けなければいけません。

ここで私の経験談をします。
私が第二監督を務めるユースBではスタッフが3人います。第一監督、私、アシスタントコーチです。
ここまで話してた内容を1人で全て行うとすると、試合から目を離す機会が増えやすくなってしまいます。ですので、試合が始まる前に私が持参するノートにいくつかの項目を作って書いておきます。例えば、「交代選手と交代時間」「自陣でボールを奪われた回数」「シュート本数」「セットプレーの数」など、選手に対して情報を伝える1つの手段となりうるものを項目として準備しておきます。それをアシスタントコーチに渡し記録してもらいます。また、そこに気づいたことなども記録してもらっています。
もちろん、可能であれば私自身も、メモを取ります。

このようにスタッフ間で役割分担を行うことで、作業に追われることなく、試合を落ち着いて冷静に見ることができます。
巻き戻しができない試合中だからこそ、慌てず落ち着いて試合を観察•分析することがとても重要です。

試合中の分析は、監督•指導者の仕事です。この仕事ができていなけば、何のために私たちはベンチにいるのでしょうか?

今回は、戦術に焦点を当てて話しましたが、分析内容には競技性や集中力といった「精神的なこと」も分析対象になります。チーム•選手をよく観察•分析し、できる限り正しく評価をしてみましょう。