サッカー

“前進”のアクションの練習例

“前進”というアクションについて考える

今回は、チームがボールを持っている時、つまり「攻撃」の局面における“前進”というアクションについて話していきます。

本題に入る前にまずは、フィールドの分割の仕方について復習していきます。
[*詳しい内容は、「フィールドを分割してサッカーを考える」という記事で話しています。]

フィールドを横に分割する時、2つのパターンがありました。

1つは、フィールドを横に2分割して、相手コートと自陣に分けて考える方法です。
もう1つは、フィールドを横に3分割して、ゾーン1•ゾーン2•ゾーン3と分けて考える方法です。

今回は、後者のフォールドを横に3分割したもので考えます。
フィールドを横に3分割にした時、攻撃の局面においてそれぞれのゾーンに、次のような名前をつけました。

ゾーン1: 自陣ゴールを含むゾーン
➡︎ビルドアップのゾーン

ゾーン2: フィールド中央のゾーン
➡︎前進のゾーン

ゾーン3: 相手ゴールを含むゾーン
➡︎フィニッシュのゾーン

なぜ、この話を今するのかというと、この記事の中で話す「“前進”のアクション」とフィールドを3分割した時のゾーン2、「“前進”のゾーン」とは異なることを説明したいからです。

「“前進”のゾーン」とは、あくまでゾーンの特徴を踏まえた名前です。
ビルドアップ•攻撃の組み立てのゾーンと、フィニッシュのゾーンへの中間ゾーンであり、攻撃を組み立て、フィニッシュのゾーンまで“前進”するという意味から、攻撃の局面にゾーン2のことを「“前進”のゾーン」と呼びます。

一方で、「“前進”のアクション」とは、相手のプレッシャーのラインを越すということです。
図で見ていきましょう。

青が攻撃、赤が守備です。
赤色の線[プレッシャーライン]を超えることが「“前進”のアクション」です。

図のように、オフ•ザ•ボールの時に相手のプレッシャーラインの背後に移動すればいいのか?
それとも、相手のプレッシャーラインを超える手段は、ボールと共に進むドリブルだけなのか?

違います。
ボールが相手のプレッシャーラインを超えることが“前進”のアクションです。

ただし、図にもあるようにプレッシャーラインの背後に味方選手がいなければ、相手最終ラインの背後へのパスを除いて、パスで相手のプレッシャーラインを超えることは難しいです。
一方で、相手のプレッシャーラインに数的優位を作れている状況では、ドリブルでの前進のアクションが簡単になりやすいです。なぜなら、ボール保持者の前にドリブルできるスペースが生まれやすいからです。
(*参照記事: チームがボールを持っている時には、相手の目の前に立つことを避ける。)

ここまでで、今回の記事のテーマについて理解いただけたかと思います。
ここから、本題に入ります。

前進のアクションに必要なこと

まず最初に知ってもらいたいことは、「前進のアクションに必要なこと」と「ボール保持のために必要なこと」は異なるということです。

ボール保持のために必要なことにはいくつかのものがありますが、その1つが「スペースを埋める」ということでした。

しかし、ここで話すことは「前進」というアクションにおいて必要なことです。
各アクションにおけいて必要なことをまとめておかなければ、練習メニューを作ることが困難になります。
そのため、今回は前進のアクションにおいて必要なことをまとめていきます。

前進においても、ボール保持と同様にいくつか必要なことがありますが、今回ここで強調したいことは次のことです。

ボールを前進させるためには、段差が必要!

段差とは何か?

段差とは、端的にいうと“選手の取る位置の高さの違い”を示します。

上記の左図の青い選手たちをつなぐ黒い線が選手の高さです。
この黒い線を多く作ることが段差を作るということです。
つまり、選手の取る高さに違いをつけることが、前進というアクションにおいて必要なのです。

極端な話、自チームの選手11人が横に一列に並んだ時、前進は可能でしょうか?

ドリブルなら行ける!

確かに、ドリブルでの前進が可能です。
ではここで、攻撃から守備への切り替えについて考えてみましょう。
もし仮に、段差の数が少ない状況でボールを奪われたとしてます。チームとして、ボールを奪った後に即時奪回を目指したい時、下図左のような状況では相手のボール保持者に素早くプレッシャーをかけることができません。もしこれに対してCBの選手がボールを奪いに行けば、相手に背後のスペースを与えることになります。

今度は、ロングボールを蹴った時のことを考えましょう。前線と最終ライン付近には選手がいて、その間に選手がいない状況です。この時、相手に跳ね返されるボールやセカンドボールを拾う選手はいるでしょうか?(下図右)

あくまでも、これは極端な例です。
ただし、攻撃という局面において段差を作ることは、前進することのみならず、攻撃から守備への切り替え、またロングボールでの前進におけるセカンドボールの回収など、さまざまな点で利点があります。

トレーニングを考える

ここからは、前進というアクションを改善するためのトレーニングについて例とともに話していきます。
「前進」というテーマでトレーニングを作るときに、どのようなことを考えながら作るのかについても話していきます。

トレーニングの簡単な流れ

まずは今回紹介するトレーニングの全体像を見ていきます。

ウォーミングアップを除き、約60分で行うトレーニングです。参加人数は、フィールド選手16名+GK2名の合計18名です。

テーマ: 攻撃における前進のアクション
トレーニング①: パス&コントロール(1-A•1-B•1-C)
トレーニング②: ボール保持(方向なし)
/6対6+6フリーマン
トレーニング③: ボール保持+フィニッシュ(方向あり)
/6対6+4フリーマン+2GK
トレーニング④: 条件付きの試合→*試合(9vs9)



試合から考える

まずトレーニングを考える上で最初に、最後のトレーニングである試合について考えみましょう。
今回のトレーニングでは、8人制でもなければ、11人制でもないため、公式戦と同じような選手配置をすることができません。そのため、まずは9対9の試合においてどのような選手配置[フォーメーション]を取るのかを考えてみましょう。

今回紹介するフォーメーションは1-3-3-2です。
なぜこのフォーメーションにしたのか、この理由は各ポジションにおける数的関係性にあります。

今回のトレーニングにおいて選手の配置を考える時、次の対戦チームのフォーメーションとの噛み合わせで次のような特徴があると想定します。

DFライン[最終ライン]においては数的優位な状況であり、GKを含めることでより数的優位な状況が作りやすい。そして、中盤のラインにおいては数的同数が起き、FW[前線]のラインにおいては数的不利な状況が生まれやすい。
例)11人制:1-4-3-3vs1-4-3-3、8人制:1-3-3-1vs1-3-3-1

以上のことから、トレーニングの最後の試合では、1-3-3-2を用います。
この時の相手チームとの数的関係性は、最終ラインで3対2(+GK)の数的優位な状況、中盤のラインで3対3の数的同数、前線のラインで2対3の数的不利な状況を作り出すことができます。

8人制でも、11人制でもない状況ですが、このようにすることで公式戦に近い状況でトレーニングすることが可能です。

これをもとに、残りのトレーニングについても考えていきます。

前進に必要なことを考える

残りのトレーニングを考える時にまず大事なことは、テーマを実行するために必要なことを考えることです。これを各トレーニングに加えていく必要があります。

今回のテーマは「前進」です。

前進のアクションにおいて必要なことは、「段差を作る」ということでした。
では、段差を作ってそれでプレーはおしまいでしょうか?
違います。

段差を作る目的を理解し、そこからどのように前進していくのかを考えなくてはいけません。

“段差を作った上で、どのように前進するのか?”
これには大きく分けて2つあります。

  • 相手のプレッシャーラインの背後でボールを受ける
    =パスによる前進
  • 相手のプレッシャーラインに対して数的優位な状況を作る
    =ドリブルによる前進

以上のことから、次のようにまとめることができます。

前進のアクションに必要なこと

●段差を作る
➡︎相手のプレッシャーラインの背後でボールを受ける
=パスによる前進
➡︎相手のプレッシャーラインに対して数的優位な状況を作る
=ドリブルによる前進

次にこれらのプレーをするときに必要な技術について考えます。
これはとても簡単です。

パスによる前進では、パス&コントロール、ドリブルによる前進であれば、運ぶドリブルとなります。そのため、これらの要素を含むテクニックのトレーニングをトレーニングの一番最初に作ることになります。

各トレーニングの説明

ここまで話してきたことを踏まえて、最後に各トレーニングについて具体的に説明していきます。

トレーニング④: 条件付きの試合→*試合(9vs9)

進め方: ボールを持っているチームをオレンジ、ボールを持っていないチームを紫とします。フィールドは攻撃方向に対して横に5分割されています。自陣ゴールのあるゾーンをゾーン1、次にゾーン2、ゾーン3、そしてフィニッシュのゾーン(相手ゴールのあるゾーン)とあります。
各ゾーンに選手を配置します。ゾーン1で3対2、ゾーン2で3対3、ゾーン3で2対3、GKはそれぞれ自分のゴールのあるゾーンでのみプレーします。
目的は、前進です。
守備側(紫)は自分のゾーンを越えることを禁止とします。攻撃側(オレンジ)は前進する上でルールがあります。ゾーン1では±0、ゾーン2では+1、ゾーン3では+2の選手が移動することできます。つまり、ゾーン1では常に3対2、ゾーン2では4対3、ゾーン3でも4対3の状況を作り出すことができます。
フィニッシュゾーンに侵入しシュートを打つためには、各ゾーンでプレーする必要があります。ゾーン2を飛ばして、ゾーン1からゾーン3へ侵入してもそのままフィニッシュゾーンに入ることはできません。
これは、ボールを段階的に進めるということを意識するためのルールです。
最後に、守備側(紫)はボールを奪ったら自チームのGKまでボールを戻して、攻撃へと移ります。この時、攻撃側(オレンジ)は攻撃時の人数制限を守りながら、相手GKまでボールを戻されることを防ぐことを目指します。ボールを奪回できた時は、そのままプレーを続けます。

*残り5分〜7分で制限を無くした試合を行いトレーニングを終えます。

トレーニング②: ボール保持(方向なし)
/6対6+6フリーマン
トレーニング③: ボール保持+フィニッシュ(方向あり)
/6対6+4フリーマン+2GK

進め方: トレーニング②では、方向付けされていない状態でボール保持を行います。18人いる選手を3グループに分けます。この内、GKは常に外側でプレーするように、GKのいるチームが中でプレーする時は他のチームから補充、もしくはあらかじめGKを除いて3グループに分けます。(後者の場合: 白とオレンジから常に2人ずつが紫[フリーマン]になる。)
図の場合、紫と白がボールを持っているチーム、白がボールを持っていないチームとします。白はボールを奪ったら、紫とともにボール保持を行います。
つまり、外側にいる紫がフリーマンで、白とオレンジで対戦することになります。外側のフリーマンは、時間で交代します。
中にいる白とオレンジの選手たちは、6つに分けられたゾーンに各チーム1人ずつ入り、それぞれのゾーンでのみプレーします。

方向のない中で、前進を意識することは難しいです。
ですので、このトレーニングで意識したいことは、相手の背後でボールを受けるということです。各ゾーンでは、2対1あるいは3対1の状況を作ることが可能です。ボール保持者に対して、DFがボールを奪いに行った時その背後にはスペースが生まれます。このスペースでボールを受けて素早くプレーすることを目指します。
*タッチ数に制限を付けても良しです。

進め方: トレーニング③(以下、TR③)では、方向付けされた中で、ボール保持からフィニッシュまでのトレーニングを行います。
トレーニング④と同じようなオーガナイズですが、スペースはより狭いものになります。TR④を8人制のフィールドで行う時、このTR③のスペースは縦約40m×横約20mとなります。

中央の3つのゾーンでボール保持を行います。残りの両端のゾーンは“フィニッシュゾーン”とします。フィニッシュゾーンを除いて、各ゾーンに各チーム2人ずつ選手を配置し、ボール保持をするスペースの各辺に1人ずつフリーマンを配置します。ルールは、TR④とほとんど同じです。ただし、フリーマンを除く選手たちは、自分のゾーンを出ることができません。

ではどのようにフィニッシュゾーンに入りシュートをするのか。
フィニッシュゾーンに入れる選手は両サイドのフリーマンと、攻めているゴールに近いフリーマン、そしてフィニッシュゾーンに一番近いゾーンにいる2人の選手です。これに対して、守備はフィニッシュゾーンには入ることはできません。
*バリエーションとして、守備側の2人が入ることを考えておきましょう。

次に、いつフィニッシュゾーンに入ることができるのかということですが、これはTR④同様、3つのゾーンのそれぞれでプレーした後です。このルールの目的も同様です。
TR③では、それぞれの選手のポジションをもとに配置します。

トレーニング①: パス&コントロール(1-A•1-B•*1-C)

進め方:
パス&コントールのトレーニングでは、いくつかのバリエーションを準備する必要があります。これには2つの理由があります。1つは集中力を継続させるため、もう1つは試合を想定したいくつかのパターンを練習するためです。2〜3つのバリエーションを準備しておくと良いと思います。
1-A : 図に記されている番号は、選手のローテーションの順番です。
1から始まり、4までいきます。5から8では反対側で同じアクションを行います。1-Aではドリブルによる前進をまず意識します。サイドチェンジから、前方に空くスペースへドリブルで前進するイメージです。
*コーンの手前でボールを受けて、ドリブルでコーンの高さを超えること。
1-B : 1-A同様、ドリブルによる前進です。ただし、1-Bでは、パスによる前進の要素も入れました。パスによる前進を行った時、特にフィールドの中央•真ん中では、相手が素早くプレッシャーをかけてくるので、それに対して素早くボールを動かすことをする必要があります。これをトレーニングしていきます。

そのため、1-A、1-Bではドリブルで前進する時を除いて、少ないタッチ数[2タッチもしくは3タッチ]でプレーすることを求めましょう。

最後に

前進を考える時に、バックパスを禁止するような指導者がいます。

バックパスを禁止することによる弊害は、いつ前進できるのかということを学べなくなることです。いつでも好きな時に、好きなところで前進できるわけではありません。

例えば、前方に相手選手が立っており、ドリブルで前進するスペースもない、前方へのパスコースもないとなった時に、「でもバックパス禁止」となった時、選手たちはドリブルでの突破を考えます。

でも結果ドリブルで相手を抜いて前進できればそれでいいじゃないか。

そうではありません。
例えば、自陣ゴール近くでこのようなプレーをしてボールを奪われれば、相手に大きなチャンスを与えることになります。また、バックパスを用いれば、ボールを失うリスク減らして前進できる場面もあります。

前進における最後のポイントは、いかに簡単にボールを相手ゴール近くまで運び、シュートチャンスを作る出せるかということです。
簡単にプレーすることとは、ボールを失うリスク、相手のカウンターを受けるリスクを減らすことにつながります。

もし仮に、バックパスや横パスなしに相手ゴール近くまでボールを前進させることができたとすれば、理想的です。ただし、この時簡単にプレーすることが前提となります。

じゃあ、メッシはどうなんだよ!メッシは相手が3人、4人いても相手を突破していくぞ!

それは、「メッシが相手を抜く」ということが簡単なプレーとされているからと考えます。サッカー指導者がサッカーを教える時に重要なことは、サッカーにおける普遍的なことを伝えることだと考えます。つまり、論理的な考えです。
メッシのような選手が当たり前のように出てくることはありません。つまり、理論•論理の範囲外の選手です。これを全てのサッカー選手に求めることはできません。

これを先ほど紹介したトレーニングに当てはめて話すと、例えばTR④の場合、ゾーン1で3対2の状況でも相手からプレッシャーが強かったり、味方のサポートがなかったりすると、パスコースもスペースもなく、前進するどころかボールを保持することすらできないことが起こります。このとき、無理にボール保持者がボールを持ち続けるのではなく、GKまで下げて、もう一度ゾーン1にボールを入れるようにしましょう。その上で、これが繰り返されるようであれば、プレーを止めて改善したり、守備側にGKまでプレッシャーをかけることを促してみましょう。

以上が「前進」というアクションについての話とトレーニングの例になります。
この記事が、皆さんの参考になれば幸いです。