年代によってサッカーの指導はどのように変わるのか?
日本の場合、サッカーの指導方法を年代によって細かく分けていると思います。
それを示すものがいくつかあると思います。今回は、その中でも顕著なものを2つ紹介します。
- 日本サッカー協会指導者ライセンスA級において年代分けされている。
(A級ジェネラル・A級U15・A級U12) - 育成年代、特に小学生年代における指導において個人技を徹底的に行う。
ちなみに、スペインサッカー協会(RFEF)やヨーロッパサッカー連盟(UEFA)が発行する指導者ライセンスにこのような年代分けはありません。
また、スペインの多くのクラブ・多くの指導者が小さい年代から「サッカー」を教えます。
サッカーを教えるとは、どういうことか?
日本では、育成年代初期[小学生年代]に個人技、特に「ボールを扱う技術」を伝えます。もっと言えば、ドリブルです。
10年前には、サッカーのチームにも限らず、パス禁止を課し、ドリブルだけを行うようなチームもありました。
一方で、スペインの場合はこのような技術のトレーニングも行いますが、それが中心ではありません。チームのトレーニングが中心になります。
どう言ったものがチームのトレーニングと言えるのか?
極端な話、1つのボールを複数人で扱うものはチームのトレーニングと言えるでしょう。
その代表的なものが、ボール保持[ボールポゼッション]のトレーニングです。
ボールを保持するために必要なことなど、チームの中で6歳になる頃からサッカーについて学んでいきます。
もしこれを学ぶ機会をこの年代に得ることができなかったとしたら、後々歳を重ねて次の年代に進んだ時に「ああ、この選手はサッカーを教えてもらうことがなかったのか。能力はあるのに、運が悪かった。」と言われかねません。
実際、このように言われる選手はいます。もちろん、スタッフ間の会話の中でのみですが😅
こう言った選手には、どんなに足が速いといった能力があったとしても、「サッカーを学ぶ」ことを遅れて始めることになります。
ここで言いたいことは、7人制であろうが、8人制であろうが、11人制であろうが、サッカーと言うスポーツをしている以上、大きな違いはないと言うことです。
サッカーはサッカーです。
サッカーを教えるとは?
「サッカーを教える」「サッカー理解度を高める」というと、日本の多くの人が「戦術」という言葉が頭によぎるでしょう。
しかし、この「戦術」はシステム(フォーメーション)や、相手のシステムとの噛み合わせのことだけを言うわけではありません。
例えば、11人制であれば「1−4−4−2」、8人制であれば「1−2−4−1」、7人制であれば「1−2−3−1」となり、全体の人数が変わればシステムも変わります。こういった年代によって、変わることにフォーカスするだけでは「サッカー」を教えているとは言えません。
間違えてもらいたくないことは、システムについて考えることが不要といっている訳でもなければ、間違っていると言っている訳でもないと言うことです。ただ、それだけでは不十分だと言う話です。
では、サッカーを教えるとは何なのか?サッカー理解度を高めるとは何なのか?
例を1つ出します。
「チームがボールを持っている時に、相手の正面にポジションを取らない。」
これは、私が所属クラブの8歳のチームの練習を見学している時に、その監督が伝えていたことです。ちなみに、全く同じことを18歳の選手にも伝えたことがあります。
何が言いたいかというと、
「8歳でも18歳でもサッカーをしている以上、サッカーをプレーしていると言う点で同じ。」
だと言うことです。
スペインでは、8歳であれば7人制、18歳であれば11人制とプレーする人数が異なります。また、選手のレベルも異なります。
それでも、ここで挙げた考えは通用します。
*「チームがボールを持っている時に、相手の正面にポジションを取らない。」
なぜこれを意識する必要があるのかを考えてみてください。
次の記事で解説します。
日本とスペインのサッカーの違い
ここからは、年代によって指導内容を分け幼少期に個人技を中心に教える日本と、幼い時からサッカーを教えるスペインとの違いについて話していきます。
今回紹介する話は、2つです。
スペインに留学する日本人サッカー選手
最初に紹介する話は、スペインに留学という形でサッカーをしにくる日本人選手についてです。
スペインに来て、多くの日本人サッカー留学生が口にするのは
「スペイン人ってそんなに上手くない」というフレーズです。
彼らは、プロクラブと言われるクラブのチームではなく、スペイン国内の上から6番目・7番目のリーグに所属するチームにトライアウトをしに行きます。上手くいけば契約、上手くいかなければ違うチームを探すことになります。契約したとしても、試合に出る確証を得られる訳ではありません。契約した後は、チーム内での競争に勝ち、プレーする機会を得なければなりません。
スペイン国内の上から6番目・7番目のリーグに所属するチームなので、普段テレビなどで目にするスペインのレベルと比べると、大きく異なります。
「スペインはパスサッカーで、テクニックがあって…」みたいなことを想像するかもしれません。しかし、実際このレベルのチームでは、日本で言うパスサッカーをするようなチームは少ないですし、日本で言うテクニックのある選手は多くいません。
なので、日本人サッカー留学生は「これならいける!」と最初は考えます。
しかし、選手時自身が手応えを感じても、契約できなかったり、契約できても試合に出れなかったりします。しかも、当初自分が考えていたリーグのレベルより1つあるいは2つ下のリーグに所属するチームでそれが起きます。
なぜか?
それは、単に「サッカー」の知識とそれを実行する能力の有無が理由です。
「監督が日本人やアジア人が好きじゃないから」「元々いる選手を優遇するから」と言う日本人もいます。ただ、私の経験上、その時起こっている問題の原因はその選手自身です。
「監督の言っていることがわからない」
スペイン語(外国語)が理解できないと言うことがまず最初だと思います。
次に、「監督がなぜそれをするように指示するのか、監督のやり方・考え方がわからない。」と言う問題に当たります。これを「この監督とは馬が合わない」「監督は自分のことが嫌いなんだ」と問題をすり替えているうちは何も変わりません。
なぜ、監督の意図がわからないのか?
それは、スペインに来るまで日本で、サッカーを教えてもらってこなかったからです。
そして、なぜテクニックで劣る選手が試合に出るのか?
日本で言うテクニックのある選手より、サッカーを理解している選手の方が重要だからです。
もちろん、上のリーグに行けば行くほどボールを扱う技術のレベルは上がりますし、そのレベルを持つ選手も増えます。なので、ボールを扱う技術を高めることは、必ずプラスに働きます。それは忘れないでもらいたいことです。
サッカーを学ぶことで、技術の差を埋めることもできます。そして、それは時に技術よりも重要視されます。
スペインに来た那須大亮さんの一言
元プロサッカー選手の那須大亮さんが、自身のYouTubeチャンネルにスペインのマドリッドを訪れた際の記録を残しています。
その中で、試合を見ながら、那須さんは次のようなことを言っています。
「ボールを持っている瞬間って、みんな(ボールに)寄ってくるんだけど、しっかり周りが離れてスペースを空けたりするから、この年代ですごいよね!」
那須さんが見ていた試合は、アトレティコ・マドリードの7人制のBENJAMIN(ベンハミン)と言うカテゴリー[9•10歳]のリーグ戦の試合でした。
つまり、日本でいう小学校3•4年生の試合です。スペインの場合、この年代では当たり前のようにスペースについての考えるようになります。
スペインの多くのチームで、サッカーにおけるスペースについての理解などをこの年代、もしくはその前からトレーニングとして行なっています。そして、この年代で学ぶことはそれからのサッカー人生に活かすことができる知識、経験、学びとなります。
*この動画の15:20あたりで、今回紹介した那須さんの一言が聞けます。
最後に
年代ごとにおいて、学ぶ内容の割合を変える必要はあると思います。
幼少期、育成年代の初めはボールを扱う技術のトレーニングを、他の年代より多めに時間を取ると行った調整は必要だと思います。
しかし、それだけでは不十分です。
なぜなら、どの年代であってもサッカーをプレーしている以上、それはサッカーだからです。フットサルでもなければ、ストリートサッカーでもありません。
もちろん、他のスポーツから学び、それをサッカーに適用することは1つのアイディアとして面白いと思います。
ただし、サッカーはサッカーです。
子供であっても、大人であっても、「サッカーを学ぶ」と言うことを忘れないでください。