実際の言葉から学ぶ
今回は、ある動画を元に話をします。
この動画は、スペイン2部のBURGOS.C.F.(ブルゴス)の監督フリアン・カレーロの記者会見の様子を編集したものとなっています。
字幕もありますので、ぜひ見てみてください。
動画内で、彼は次のような話をしています。
「美しくサッカーをプレーすること」と「サッカーを良くプレーすること」、人々はこの2つを混同している。
では、どんなことが美しくサッカーをプレーすると言うのか、また一方で何を持ってサッカーを良くプレーすると言えるのか、これについて動画内の発言を踏まえて話していきます。
「美しくプレー」•「良くプレー」の定義
ブルゴスの監督フリアンは、動画内でそれぞれのプレーを次のように説明しています。
「美しくプレーするとは、ボールと共にプレーする時の話だ。ボールを浮かせたり、股抜きをしたり、パスサッカーと呼ばれるようなものもその一つだ。」
「一方で、良くプレーするとは、サッカーにある4つの局面、攻撃•守備•ボールを奪われた時[攻撃から守備への切り替え]•ボールを奪った時[守備から攻撃への切り替え]、それぞれで良いプレーをすることだ。」
「サッカーはただ1つの局面をプレーすれば良いわけではない。サッカーを良くプレーする、これ以上もこれ以下もない。」
直訳は動画の字幕で記していますが、意訳するとこのようになります。
そし、さらに続けて次のようなことを言っています。
「もしこれ[4つの局面それぞれで良くプレーすること]と、君の持つ素晴らしいテクニックが組み合わされば、それはサッカーを良くプレーすることでもあり、美しくプレーすることでもある。」
つまり、「サッカーを良くプレーすること」と、「美しくプレーすること」は同時に起こりうるが、美しくプレーするだけではサッカーを良くプレーするとは言えないと言うことです。
サッカー指導の内容
これらのことから、サッカー選手はもちろん、彼らを指導するサッカー指導者も「サッカーの4つの局面それぞれで良いプレーをすること」を目指さなくてはいけません。
以前の記事でも話しましたが、テクニックの向上を目指すことは悪いわけではありません。しかし、動画でもあったようにそれだけでは不十分なのです。
特に幼い年代[10歳未満]のサッカー選手に対して、日本では多くの指導者・チームが個人技と呼ばれるボールを扱う技術に指導をフォーカスしています。
これについて、この記事が1つ考えを見直すきっかけになれば幸いです。
まずは、サッカーの4つの局面について整理しましょう。
- 攻撃
- 守備
- 攻撃から守備への切り替え[ボールを相手に奪われた時]
- 守備から攻撃への切り替え[ボールを相手から奪い返した時]
日本で多く見られるトレーニングは、この中の❶攻撃の局面のトレーニングです。
ボール保持、フィニッシュ、1対1、ここにフォーカスしているだけの選手•指導者が多くいます。*もちろん、全員が全員ではありません。あくまで私の主観です。
しかし、サッカーを良くプレーするためには、他の局面にもフォーカスしなくてはいけません。
トレーニングを作るときの考え方にもつながります。
まずは頭の中に、トレーニングのテーマとなる局面を1つ頭に思い浮かべてみてください。
(例: 守備)
次に、どのような守備のトレーニングを行うのか考えてみてください。
(例: 積極的にボールを奪いに行く)
では、このとき想定する相手はどのようなプレーをしてきますか?
ここが重要です。
ロングボールでプレッシャーを交わすチームですか?それとも、数的優位を作ってプレッシャーを交わすチームですか?また、そのとき相手はどのように動くと想定されますか?
(例: ロングボールからセカンドボールを拾って攻撃する)
そして、この解決策を準備して選手•チームに落とし込むことがトレーニングの目的となります。
さらに、考えていきましょう。
ボールを奪ったあと、チームとして何を目指しますか?カウンターですか?それとも、安全なパスでボールを確実に繋ぐことですか?
この時も重要です。
相手はボールを失った時、どのような状況で、どのようなアクションを起こすと想定しますか?
(例: 2人のセンターバックが大きく開いているので、ボールを奪った時に相手DFラインに大きなスペースがある。だから、第一にカウンターを目指す。一方で、相手はボール即時奪回を目指してプレッシャーをかけてくるので、パスで素早くそのゾーンから逃げる。)
ここまで考えれば、ある程度トレーニングの形が見えてきます。
サッカーについて考える時に重要なこと
何度も繰り返しますが、サッカーには4つの局面があります。
上図からもわかるように、それぞれの局面は対になるものがあります。なぜなら、サッカー2つのチームで行われるスポーツだからです。片方のチームがボールを持っている時[攻撃の時]、もう片方のチームはボールを持っていません[守備]。
だからこそ、もし「攻撃のトレーニングをしたい!」と考えた時には必ず守備のことも考えましょう。ただし、それはトレーニングを止めて説明する[フリーズコーチング]を必要とするものではありません。
トレーニングが始まる前にあらかじめ選手たちに伝えておくと良いでしょう。
例えば、ボール保持のトレーニングを考えてみましょう。
前回の試合で、積極的にボールを奪いにくる相手チームに対して、ボールをたくさん失っていました。なので、今回のトレーニングでボール保持をテーマにすることにしました。
このとき、攻撃側にばかり目を向けてはいけません。なぜなら、守備側への働きかけがなければ、エラーが起こった状況を再現することができず、トレーニングの目的を果たせないからです。
しかし、プレーを止めて「この選手はあそこにいる選手へこういう風にプレッシャーをかけて、あの選手は向こうにいる選手に…」と説明していては本来のテーマがぶれてしまいます。なので、ボール保持のトレーニングを始める前に選手たちに次のように伝えるとみましょう。
「前回の試合で、積極的にボールを奪いにくる相手に対してボールを失ってしまったから、今日はボール保持のトレーニングをしよう。だから、守備側は積極的にボールを奪いに行くこと。短い時間で役割を変えるからその時間は常にボールを奪いに行こう。」
これで、守備側への働きかけは以上です。もし、トレーニングの中でそれをサボっているようであれば改めて伝えましょう。
とにかく、トレーニングを準備するとき、トレーニングを行なっているとき、テーマとなるポイントだけではなく、他の局面にも目を向けるようにしましょう。
最後に
ブルゴスの監督フリアンも言うように、サッカーには4つの局面から成ります。
もし、サッカーを良くプレーしたいのであれば、その全てを抑える必要があります。
ただし、動画終盤でフリアンは次のようなことを言っていました。
「私たちは自分たちの状態•能力を知っているので、それに合わせて最大限の能力を出す。でも間違えないでほしい。君じゃないものになろうとするな。君ではないことをするな、君に相応しいことをするのだ。」
極端な話、サッカーを始めたばかりの子供達に、レアル•マドリッドの選手たちに対して行うような要求は適切ではありません。
ただ、ここに1つ付け加えるとすれば、「それでもサッカーはサッカー」と言うことです。
簡単な話、6歳の選手にサイドチェンジのボール、30m近くを蹴れと言うのと、レアル•マドリッドの選手に30m近くのボールを蹴れと言うのでは、それぞれの要求が適切かどうかは明確です。
しかし、「相手が目の前にたくさんいるときは、反対のサイドにボールを運ぼう」と言う要求はどちらの選手に対しても適切と言えます。これがキック力のない6歳の子供であれば、何人かの味方選手と協力して素早く反対サイドにボールを運ぶだけです。
サッカーを教えることと、過度な要求をすることは異なります。
自チームの選手、自分の能力をできる限り正確に把握し、そこからどのように4つの局面で良いプレーをするかを考える必要があります。
これができたとき、きっとあなたは「サッカーを良くプレーした」と言えるでしょう。