サッカー

ダイレクトプレーで抑えること

そもそもダイレクトプレーとは?

まずは、「サッカーの基本を抑える」で見たダイレクトプレーの定義から確認していきましょう。

“ダイレクトプレー”とは、
「直接的に相手ゴールに向かって前進する攻撃」。

もう一つの攻撃の種類、「コンビネーションプレー」と比べて考えるとわかりやすいかもしれないので、ついでにコンビネーションプレーの定義も復習しておきましょう。

“コンビネーションプレー”とは、
「ボールを保持しながら相手ゴールに向かって前進する攻撃」。

まずは導入として、「ロングボールをたくさん蹴るチームは、ダイレクトプレー」くらいの感覚を持つと良いと思います。逆に、「細かいパスを繋ぐようなチームはコンビネーションプレー」と最初は考えてください。
正確には、実際の判断基準とは異なりますが、見ているチーム(自チームあるいは相手チーム)の攻撃の特徴を分類する上で、これらのことは一つの判断材料となります。

復習も終えたところで、早速本題に入っていきましょう。

ダイレクトプレーは悪いことではない!!

まず、これを皆さん理解してください。

 

ボールを闇雲に前へ蹴るな!ボールをつなげ!

日本ではこういったことを頻繁に言う指導者がいます。
もちろん、チームとして「コンビネーションプレー」を選択しているのであれば、ボールを保持しながら前進したいはずなので、ボールを繋ごうとすることは大事です。
しかし、選手の能力が相手チームより劣っている時、チーム全体でうまくいかない時[調子が悪い時]、そもそも選手の現状の能力がボールを保持できる状態ではない時、これらの状況ではダイレクトプレーもサッカーと言うゲーム・スポーツで勝つためには1つの手段となります。

目的と手段をはきちがえてはいけません。

また、ダイレクトプレーにはさまざまな利点もあります。
まずは、ダイレクトプレーの特徴を見ていきましょう。その上で、ダイレクトプレーをする利点について考えてみましょう。

「前進」と「保持」の優先順位

そもそも“ダイレクトプレー”とは、「直接的に相手ゴールに向かって前進する攻撃」と言うことでした。ここで考えてもらいたいことは、コンビネーションプレーのことです。
コンビネーションプレーは、ダイレクトプレーに対して、「ボールを保持しながら前進する攻撃」と言うことでした。
以上のことから次のような関係性が見えてきます。

コンビネーションプレー
前進4保持6

ダイレクトプレー
前進6:保持4

各攻撃の種類の、割合の高い方を赤文字で記しました。

もっと前進と保持の間に割合の差はないのか?この位の差であれば、違いはないだろう?

もしかしたら、このように考える人もいるかもしれません。
しかし、実際はどちらにより重きを置いているかを比較して見ているに過ぎません。
コンビネーションプレーであっても、ボールを保持すれば良い訳ではなく、前進しなければいけません。一方で、ダイレクトプレーも攻撃している以上、ボールを保持できる状況下ではボールを保持できるに越したことはありません。なぜなら、自チームがボールを持っている以上、相手チームの得点を許すことはないからです。
どちらのプレーを選んだとしても、サッカーをしていることには変わりません。
そして、ボールを持っていない状況ではゴールはできないので、どちらに重きをおいていたとしてもボールを保持することは考えなくてはいけません。

例えば、ダイレクトプレーのチームが次のような状況だとします。
(青チーム:攻撃[ダイレクトプレー])
この図のように、相手のプレッシャーもなく、相手の守備ブロックも全く崩れていない状況下で、前進を優先して長いボールを蹴り込むことは進んでボールを失いに行くようなことです。
*尚、例外は必ずあります。例えば、負けている状況で残り時間が少ない時などです。

なので、ダイレクトプレーだからと言ってボールを保持することを全くしないわけではありません。あくまで、「前進」と「保持」を天秤にかけた時の重さの違いです。常に「前進」と「保持」の両方が存在しています。

少し話がそれましたが、ここで言いたいことは、
ダイレクトプレーは「ボール保持」より
「ボールを前に送ること[前進]」に重きを置いている

と言うことです。
つまり、優先順位です。

ダイレクトプレーのメリット

ダイレクトプレーのメリットは、攻撃時のリスクを最大限減らすことができることです。

なぜか?

そのためには、まず「攻撃」と言う局面におけるリスクを考えなくてはいけません。
攻撃におけるリスクとは「ボールを相手に奪われること」、さらに言えばそこから「自陣ゴールへ攻められること」となります。
つまり、攻撃における最大のリスクとは、次のように言うことができます。

攻撃における最大のリスクとは、
相手にボールを奪われ、自陣ゴールに攻められること。

次に、なぜダイレクトプレーはこのリスクを減らすことができるのかを考えて見ましょう。

ダイレクトプレーにおける優先順位は「前進」することです。
つまり、ボールを前に運ぶことです。
最も簡単にボールを前へ、またより前へ運ぶことができる手段が“ロングボール”です。
わかりやすく図で見て見ましょう。


青とピンク(GK)が攻撃、赤と黄色(GK)が守備です。
例えば、図のようにボールを持っている時[攻撃時]に、相手からプレッシャーを受けています。この時、最も簡単にかつより前進できる手段が図のようなロングボールです。
*左から相手のプレッシャーを受けている状況では、中央にボールを蹴ることは簡単ではないでしょう。なので、今回はわかりやすさも兼ねて図のようなロングボールを例にします。

この時、ボールがより「前進」している、ボールがより「相手ゴールに近づいている」と言うことは何を意味するか?
これが分かれば、ダイレクトプレーの大きなメリットがわかってきます。

ボールがより「前進」している時、ボールは自陣ゴールからより離れた位置にあります。
つまり、仮にロングボールでボールを失ったとしても、自陣ゴールから遠い位置で守備を始めることができます。さらに言えば、攻撃から守備の切り替えを相手ゴールにより近い位置で始めることもできます。

ダイレクトプレーにおけるメリットとは、
「相手ゴールにより近い位置にボールを送ることで、攻撃におけるリスクを最大限減らすことができる」と言うことです。
*もちろん、相手ゴールにより近い位置にボールを送ること自体もダイレクトプレーのメリットです。

ここでは、ダイレクトプレーにおける一般的な特徴のみを話しています。各チームの選手の特徴などはこの後に少し触れます。

ダイレクトプレーの良し悪し

つまり、ダイレクトプレーは前線にいる味方選手に対してロングボールをバンバン蹴れば良いんでしょ?簡単じゃん!

このように、考えている場合、ダイレクトプレーはうまく機能しません。
ダイレクトプレーはそんなに簡単なものではありません。

スペインは、過去のバルセロナやスペイン代表によって、パスサッカーのイメージが日本では強いですが、実際に日本で言うパスサッカーをしているチームはスペインにはほとんどありません。多くのチームがコンビネーションプレーではなく、ダイレクトプレーを選択しています。
これは、全てのチームがリーグ戦に所属しており、結果を求められることが背景にあるでしょう。
*また別記事で話したいと思いますが、選手・チームの成長は結果を出すために必要だから目指すものです。

私はスペインの街クラブのいくつかのカテゴリーでスタッフとしてシーズンを過ごしてきました。(よろしければこちらの記事をご参照ください。)
その活動の中で、多くのチームを見てきましたが、ほとんどがダイレクトプレーでした。
しかし、そこには良し悪しがあるのです。

ここからは、ダイレクトプレーにおける良し悪しを私がどのように判断しているのかについて話します。

組織する[オーガナイズする]

私が、ダイレクトプレーをするチームの良し悪し、つまりそのチームのレベルを判断する上で見ていることはただ一つです。

チームをオーガナイズしているか、そうでないか。

これだけです。

ただ闇雲にボールを蹴っているのか、それとも狙ってそのプレーをしているのか、これがとても重要です。

ダイレクトプレーにおいて、オーガナイズされているかどうかを知るためには、ダイレクトプレーに含まれる要素を確認する必要があります。
ここから、それらの要素を見ていきましょう。

ダイレクトプレーに必要な要素

  • ボールを前に運ぶタイミング
    [いつ・誰が・どこから・どのような状況で・どこにボールを蹴るのか]
  • ボールを前に運ぶためにどのようなことをするのか
    [意図的にボールを前に運ぶタイミングや状況を作れているか、どうか]
  • ボールが送られた先の選手の配置
    [ボールが到達する場所に、何人の選手が、どのように配置されているのか、またそれぞれの選手の役割は何のか]
  • ボールがつながった後のアクション
    [ボールを保持することができた時に、どのようなアクションを選手たちがするのか]
  • ボールを失った時のアクション
    [ボールを保持することができなかった時、どのようなアクションを選手たちがするのか]

最低限として、これらのことを考えていなければ、ダイレクトプレーをうまく機能させることはできません。

ダイレクトプレーのコンセプトの例をここに出します。

あくまで例です。

ここで注目してもらいたいことは、赤線を引いたところです。
これらのことがチームとして、トレーニングされていれば、「オーガナイズされたチーム」となります。

つまり、
どのように数的優位を作り出すのか?
どのようにして背後にスペースを作るのか?
そのために誰がどのように、いつ動くのか?
これをトレーニングしていかなければなりません。

今後、当サイトでいくつかのトレーニングメニューを紹介していきます。その中には、今回話したダイレクトプレーに関するものもあります。ぜひ、今後の記事にも目を通してみてください。

そして、これらの役割を考えるときに忘れてはいけないことが、選手それぞれの特徴です。
身長の高い選手、競り合いの上手い選手、こぼれ球も拾うことが得意な選手、足の速い選手などなど選手個人にはそれぞれ少なからず特徴があります。
その特徴を最大限活かせるプレーを準備することが監督・指導者の仕事です。

トレーニングはもちろん、実際の試合でのゲームプランも含めて考えて見てください。

最後に

今回、抑えてもらいたいことは、以下の3つです。

  1. ダイレクトプレーとは何か?
  2. ダイレクトプレーは一つの手段。
    ダイレクトプレーは悪いものではない。メリットがある。
  3. ダイレクトプレーは簡単ではない。
    オーガナイズ[組織]しなければいけない。

ボールを保持しながら前進することがサッカーの全てではありません。
コンビネーションプレーだけを知っている状態は、指導者として十分な知識量とは言えません。相手のサッカーを分析するためにも、自チームの様々な状況に適応するためにも、サッカーの知識の幅を広げることは重要です。

ぜひ、コンビネーションプレーだけではなく、ダイレクトプレーにも意識を少し向けて見てください。