努力したら何にでもなれる?
日本では、一生懸命頑張れば、誰でも何にでもなれるという話をよく聞きます。
例えば、才能がなくても、全てを捧げて頑張ればプロサッカー選手になれると言った話です。
先に言いますが、一生懸命頑張ることを否定する訳ではありません。
ただし、これは全ての人に言えることではないと考えます。
今回は日本とスペインのサッカーの環境の違い、特に育成年代[小学生年代〜高校生年代]の違いから、選手・指導者における重要な考え方について話します。
日本とスペインのサッカーの違い
日本サッカーでは才能を“作ろうとする”
これが当サイトの見解です。説明します。
テクニック重視のトレーニング
日本とスペインのサッカーの指導現場を比べた時、何が良くて何が悪いかは置いといて、いくつかの違いがあります。
その中で最も顕著と言えるのが、「個人にフォーカスしたトレーニングの量・時間」といえるでしょう。
まず、個人にフォーカスしたトレーニングとはどのようなものか、これをまずここで共有しましょう。
個人にフォーカスしたトレーニングの代表的なものが、ドリルトレーニング、相手のいないトレーニングです。下記のようなものがこれにあたります。
リフティング
コーンドリブル(フェイントのトレーニングなども含む)
対面パス(ロングキックも含む)
シュート練習
などなど
もちろん、スペインでも相手のいないトレーニングを行うことはあります。
ただし、こういったトレーニングにかける時間が日本とは異なります。
年代にもよりますが、相手のいないトレーニングは基本的に長くても1日20分です。
*ちなみに、スペインでは1回のトレーニングは70分〜90分です。この中には、ウォーミングアップやフィジカルトレーニングも含まれます。
ちなみに、リフティングの練習をしているようなチームを私はスペインで見たことはありません。
ここで多くの人が疑問を持ちます。
「個人に委ねられている。」というのが、正直なところです。
つまり、才能です。
サッカー指導者が選手に教えなければいけないこと、チームとしてやらなくてはいけないことは、テクニック以外にもたくさんあります。むしろ、テクニック以外のことの方がチームとしてやるべきことは多いですし、それを身に着けるためにはより多くの時間が必要です。
なので、スペインではテクニック、特に個人技術にフォーカスしたトレーニングは基本的には日本ほど徹底して行いません。
そもそもボールを扱う感覚は、その選手個人が元から持っているものです。
例えば、「ロングボールを蹴って」と言った時に、1回目でしっかりボールの芯を捉えられる選手と20分蹴り続けてやっと1回ボールの芯を捉えられる選手がいます。
この時、チームとして後者のために用意する時間はありません。なぜなら、他にチームとしてやらなくてはいけないことがあるからです。
しかし、日本では高い水準のテクニックを全ての選手にどんなチームでも求めます。
これを当サイトでは、「才能を作る」と表現します。
一方で、スペインではより優れた能力・才能のある選手がより優れたチームへ行きます。
クラブ・チーム・指導者は自チームのレベルにふさわしい選手を獲得します。そのため、チームの中で選手のレベルの差が現れにくいです。
そして、クラブ・チーム・指導者は獲得した選手たちの能力が最大限に活かされ、かつその選手たちの持つ才能をできる限り引き出し成長するために働きます。
これを当サイトでは、「才能を育てる」と表現します。
これはこの後話す、“スカウトやクラブ・チーム・指導者が選手を選ぶ”、ということにつながります。
*少しでも上にいきたい選手は、チーム活動外で個人トレーニングを行うことが一般的です。ただし、ここで行うトレーニングはフィジカルトレーニングが主です。
練習グラウンドやスタッフが充実しているクラブやチームでは、スタッフがチーム練習の前後に個別でテクニックにフォーカスしたトレーニングを行う場合もありますが、あまり多いケースではありません。
さらに1つ付け加えると、日本では相手を抜き去るトレーニングを多く行うように見えます。
サッカーにおいてこのようなテクニックは重要なことではありますが、サッカーの全てではありません。
これは、以前話した「美しくプレーする」ことであり、サッカーを「良くプレーする」ことにはなりません。(*スペインのプロ監督から学ぶサッカーの考え方)
海外サッカー、特にヨーロッパの選手を見ると全ての選手が、俗に日本で言う「テクニックのある選手」ではありません。攻撃的な選手には、相手を抜き去るような個人技が求められますが、例えばセンターバックの選手がシザースを使って相手を抜き去るようなテクニックは最優先事項ではありません。
例え、ネイマールやメッシのような個人技がなくても、優れた選手になることはできます。逆に言えば、守備的な選手にネイマールやメッシのようなプレーは求められていません。
ですが、日本では相手を抜き去る技術を全ての選手に徹底して教える傾向が強くあります。
これに関しては「適材適所の判断」、「才能・能力の判断」が必要だと考えます。
1対1における個人戦術の指導は必須ですが、1対1において突出した選手になるかどうかは選手の才能です。また、それが必要な選手かそうでないで選手なのかを見極める必要があります。
例を2つ出します。
例①:例えば、スペインのマドリッド州1部で1対1において突出した選手は間違いなく才能はありますが、スペイン国内ユース1部の選手に比べるとその才能は劣ります。
能力・才能の有無またそのレベルをクラブ・チーム・指導者が的確に見定めることとなります。
例②:先ほど話したポジションの違いです。センターバックの能力・才能があるに選手に対しては、相手をかわすことより、簡単かつ確実なプレーを求めるべきです。確かに、この簡単なプレーをするためには技術が必要です。しかし、それは攻撃的な選手に求められる技術とは異なります。
これはチームの中での役割の違いです。そして、その役割には適材適所があります。
だから、スペインでは選手の能力によって所属するリーグ・チームが決まる傾向が非常に強く、個人トレーニングよりチームトレーニングの量・時間が多くなります。
なぜなら、技術に関してはチーム内で大きな差はなく、また所属するリーグ内でもその差は小さく、それ以上にサッカー理解度[戦術的な要素]において差が生まれるからです。
スカウトが一般的ではない
日本サッカー界では、スカウト[選手の引き抜き]が一般的ではありません。特に、育成年代においてです。
クラブチームであればセレクション、部活動であれば基本的に誰でも入れます。
つまり、クラブ・チーム・指導者が望んだ選手が必ず来るわけではありません。
この時起こることが、選手間の実力の差です。
例えば、とある県の1部リーグに〇〇という部活動のチームがあるとします。
部活動なので、基本的に誰でも入ることができます。
そのチームの中には、地方リーグ[プリンスリーグ]でプレーできるレベルの選手が1人、それ以外は県2部リーグのレベルの選手だとします。
こうなった時に、指導者[監督]は県2部リーグの選手が県1部リーグでなんとか戦えるように、トレーニングを行います。
一方で、スペインの場合、スカウトが一般的です。
1シーズン、リーグ戦を戦いながら他チームの選手にも目を光らせます。時には、所属する年代とは異なるカテゴリーのリーグ戦やチームも見ます。
そして、リーグ戦終盤になってくると、来シーズンの選手リストを考え始めます。
例えば、ユース3年目のチームの監督が来シーズンもユース3年目のチームを見る予定の場合、まず同クラブ内の選手から来シーズンユース3年目のチームの選手リストに入るであろう選手をピックアップします。また、他クラブから獲得したい選手についてもチームスタッフ間で意見交換を行います。
このように、スペインでは自チームにふさわしい「才能を探す」作業があります。
これは毎年行われています。
そして、獲得した後の指導者の仕事の1つに「その才能を育てる」ということがあります。
では「才能を育てる」とはどういうことなのか?
「選手の持っている能力・才能を伸ばす」
例えば、テクニックも身体的能力もあるが、以前まで所属していたチームで戦術のことを十分に教わってこなかった選手がいたとします。多くの場合、指導者に恵まれなかったか以前のチームがダイレクトプレーでボールを繋ぐためのトレーニングを行なっていなかったことが原因です。
そして、この選手にサッカーについて教え、さらにはその選手が持つ可能性をさらに引き出すことこそが「才能を育てる」と言うことです。
ただし、サッカー理解度が低いにも関わらず、テクニックや身体的能力だけを見て獲得してしまえば失敗に終わります。
「持っているを能力・才能を伸ばす」
無いものを要求することはできません。
考えてもらいたいこと
選手
サッカー選手としてサッカーをプレーしている人たちに考えてもらいたいことは1つです。
日本1になることやプロになることが全てでは無いと言うことです。
一番を目指すことはとてもいいことだと思います。しかし、ここまで話してきたように「適材適所」、「才能の有無とそのレベル」が存在します。プロになれる才能を持った人、アマチュアのトップレベルになれる才能を持っている人、県リーグで活躍できる才能を持った人、地域リーグで活躍できる才能を持った人、さまざまな人がいます。
自分のいるところで最大限にサッカーを楽しむことを考えてください。
選手として、サッカーを楽しむためには最低限サッカーをプレーしなくてはいけません。
その中で、少しでもサッカー選手として上達し、自分のいる環境で少しでもいい結果を求めてください。
指導者
指導者の人は、2つのことを考えてもらいです。
1つは、「才能を探す努力をする」ことです。
もう1つは、「才能を育てる」ことです。
「才能を探す努力」とは、簡単に言うとできるだけ多くのサッカーの試合を見ることです。
今は、試合映像を撮るチームも増えてきて、映像でサッカーの試合を見ることが昔に比べてより簡単です。
ですが、できることならばグラウンドに足を運んで、ぜひ試合を見てください。
もしあなたが中学生のチームを見ているのであれば、小学6年生から中学3年生が出ている公式戦や練習試合、大会などに少し目を向けてみてください。
高校生のチームを見ているのであれば、中学3年生から高校3年生が出ているものを、小学生のチームを見ているのであればキッズサッカーイベントから小学生が出ている試合に少し目を向けてみてください。
もちろん、あなたの所属している団体にあるチーム[Aチーム、Bチーム、Cチームなど]にも目を向けることを忘れないでください。
もう1つの「才能を育てる」とは、自分のチームの選手にサッカーを教えることです。
「サッカー指導者を育てる」と言う記事でも話しましたが、サッカー指導者とはサッカーを指導する人、チームを導く人を言います。「人としての成長」「自立性を促す」といったことだけで、サッカーを教えない人はサッカー指導者とは言えません。
間違えてもらいたくないことは、サッカーには「技術」「戦術」「身体的能力」「メンタル」と言う要素があるので、「人として成長すること」「自立すること」は必要なことです。
そして、サッカーを選手に教える、指導するためには、指導者自身がサッカーを学び続けなければいけません。その学びに終わりはありません。指導者ライセンスを取った、取らない、指導歴が長い短いの話ではありません。
20年以上サッカー指導者をしていても、まだ指導者として5年も経っていない人にサッカーの知識で負けることはあります。それは、指導者としての「才能」とも言えますが、その知識を得るための努力・学びをしてきたかと言うところがまず最初の問題です。
才能を育てるために必要な環境
最後に、「才能を育てるために必要な環境」を当サイトから提案して、この記事を終わります。
- リーグ戦の開催
- 選手登録と移籍のルール作成
リーグ戦を開催することで、選手にそれぞれの環境で最大限にサッカーを楽しむことをしてもらいます。
予選・トーナメント形式の大会では、1シーズンを通して公式戦の数にチーム間で大きく差が出ます。1シーズン最低でも30試合のリーグ戦開催が必要です。
トーナメントで勝ち残らずとも、各々のリーグ戦で結果を残すためにサッカーをプレーしてもらうことができます。
そして、全ての選手がほぼ毎週末にリーグ公式戦をプレーすることで、指導者の人たちの目に触れる機会を定期的に作ります。
選手登録と移籍のルール作成は、才能が埋もれることを防ぎます。
1チームが選手登録できる人数を制限することで、試合に出れない選手をそのチームが抱え続けることを防ぎます。そうすることで、試合に出れない選手が減るようにし、全てのサッカー選手がサッカーをプレーすることを楽しむ環境を作り出します。
*尚、1チームと1クラブは異なります。
〇〇クラブの中に、〇〇クラブAチーム、〇〇クラブBチームとあります。ただし、「チーム登録した場合、必ずリーグ戦に所属しなくてはいけない。」と言うルールを含むべきです。
選手登録のルールとともに、移籍のルールを作成します。
試合に出す予定のない選手は登録できませんが、その時に移籍できる環境を作らなければなりません。
例えば、1チームの登録人数の最大を25名とした時、26人目の選手は移籍先を探さなくてはいけません。なので、その移籍を認め、実行できる環境を準備する必要があります。
仮に、強豪クラブのAチームではユース3年目の26人目の選手A君がいると想像してみて下さい。
そのクラブ内には、B・Cチームがあります。しかしBチームは、ユース2年目のチームなので、Cチームに行くしかありません。CチームはAチームの2つ下のリーグにいます。現状の日本サッカー界ではこのCチームに在籍することになります。しかし、Aチームと同じリーグのあるチームにとって、その選手は25人の中にいます。むしろ、常にプレーする予定の11人の中に入っています。
この時、A君には今のクラブのCチームでAチームの2つ下のリーグで1シーズン過ごす可能性と、Aチームと同じリーグの別チームで1シーズン過ごすことの2つの選択肢があります。
当サイトでは後者を基本的にはおすすめします。
最終的には、選手本人が決めることですが、選手としての喜びは「サッカーをプレーすること」です。そして、そのレベルが少しでも高ければさらに成長する可能性を手に入れることができるでしょう。
「リーグ戦開催」と「選手登録と移籍のルール作成」が叶えば、おのずと「才能を育てる」環境が生まれると考えます。